花はいつなんどきも美しく
「男と付き合うなんてありえねえって」


笑いながら、まだそんなことを言う。


「最近、お前は俺の彼女かよってくらいしつこくなっててさー。あ、今そこにいるんだっけ?じゃあ言っといて。もう、お前とは」


こいつには、他人を思いやる心ってのがないのか。


こんな奴を生涯のパートナーに選んでいたのか、私は。


人の見る目がなさすぎて、悲しくなってくる。


「……なあ」


冷静になったはずなのに、奴の言葉を遮った私の声は驚くほど低かった。


「な、なんだよ」


奴が戸惑っているのが、電話越しでもわかる。


「最低だな、お前。人のこと傷つけておいて、なんとも思わないのかよ」


すると大きなため息が聞こえた。


「それはこっちの台詞だよ。聡美は俺の気持ち、少しでも考えたことあったかよ」


返す言葉もない。
自分のことしか考えていなかったから、こういう事態を招いた。


どうやら、私が言えたことではなかったようだ。


「気分悪い。雪に、二度と俺に関わるなって言っといて。じゃあな」


そう言って電話を切られた。


「フミ君、なんて……?」


私がスマホを耳から離すのとほぼ同時に、園田雪は聞いてきた。
だけど、その目は潤んでいて、よくないことを言われたと悟っているように見えた。


「……二度と関わるなって」


こういうときにつく嘘は優しい嘘だろうとわかっていても、嘘がつけなかった。
馬鹿正直に伝えてしまった私は、本当に人の気持ちを考えることができないらしい。


「そう、ですか……ありがとうございました」
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