さよなら、片想い
 私を選ばなかったことを宏臣に後悔させてやろう、なんて発想はなかった。この水色のドレスを選んだときには少しはそういう気持ちもあったかもしれない。でもそれは岸さんとこうなるずっと前の、心がひりついていたころの話だ。
 今となっては前世くらい遠い過去。別の私だ。分岐はとうに過ぎている。


「今は岸さんしか考えられないから。大丈夫だよ」

 岸さんはわずかに目を見開いた。なにか言おうとして言葉にならなかったようで、運転席から俯いて私の肩に額をつけた。

「え。どうしたの」

「君のせいだ」

「はあ」

「君のせい」

「聞こえてます。そうじゃなくて!」

 キスで口を塞がれて、続きは言わせてもらえなかった。
 執拗に唇を求められる。なにも考えられない。岸さんにこういうことをされると私はもうダメだ。さっきまでのあれこれがどうでもよくなってしまう。

「場所を替えても?」

 私は黙って頷いた。
< 140 / 170 >

この作品をシェア

pagetop