さよなら、片想い

 店の商品を、振袖を見ていたのはそれを買っていくからではなくて、生地の色や模様の雰囲気を決めるためだという。

 販売部の方も、宏臣の要望が実現可能のものだと言い添えている。


 宏臣の言うとおり、私には着物の柄を描く技術があった。手描き友禅と呼ばれるものだ。
 美大を卒業してこの会社に入ってから身につけた。
 いつも集まっている友人達も皆知っている。


 入社して一月で実際の着物に染色しているし、三年目ともなれば委託先への技術指導にも出られる。
 職場で最年少の私でも、それだけの腕がある。


 きらきらの目をして宏臣はなおも熱弁を奮う。

「俺もう、自分のこの思いつきにじっとしていられなくってさ。こんなチャンス、そうそうないだろ!? 昔馴染みの友人の門出に華を添えると思って、協力してくれよ。一生、恩に着るからさ!」


 ちなみにこっちにいるのが花嫁になる人ね、と宏臣が振りかえる。
 視線の先にいた女性がはにかみながらお辞儀をくれて、ああやっぱりと思う。

 本当におめでとうございます、と販売部の人達がそんなふたりを囲んでいるーー。



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