さよなら、片想い

 宏臣の商談はまとまり、その場で手続きをすることになった。

 終わるのを社員通用口の外で待つ。
 何故待つのかというと、このあと宏臣と奥さんになる人との三人で食事に行くことになったからだ。
 断れなかった。雰囲気的に。


 もうやだ。

 好きな人に結婚を告げられてその衣装制作を託されるとか。
 一生恩に着ると言われるとか。

 それって、宏臣にはその女性との人生しかなくて、それ以外は見えていないってことで……。


 逃げたいけれどその気力も削がれてうずくまっていると、人の気配を感じた。




 どちらかといえば、私以上に相手のほうが驚いていた。
 男の人。知っている顔だった。

 意匠設計部ーー通称・意匠部の岸さんだった。


 私のすぐ横にある自動販売機で飲み物を買おうとしたんだろう。
 硬貨が転がってきた。なので、拾って渡そうとした。
 ごくふつうの流れだ。なのに、なぜか受け取ってくれなかった。


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