さよなら、片想い

「今回、こちらの園田さんがご結婚されるということで、これを機に奥様となられるかたに振袖を仕立てるお話になったそうで、袖を短くして訪問着にできるようなものをお探しだとか。名取さんは園田さんのご友人なんですよね」

 話を振られた私は当惑しながら返事をした。

「はい、まあ。でも今日来るとは聞いていなくて」


 少子化が進み、成人式を迎える人口も減っている。

 人が少なければ着物を着る人も経る。
 そんな時代だからこそ、一枚でも多く着物が売れるのは大変ありがたいことだった。
 接客にあたる人たちが活気づいているのも頷ける。


 で、私が呼ばれた意味とは? と、待ちの姿勢でいると、宏臣が一歩進みでた。

「結衣に頼みがあるんだ。せっかくの晴れの日の着物だから、結衣に描いてほしいんだ」

 思いがけない提案に、一瞬、意味がわからなかった。

「着物の手描きをやってるって話だったろ? 違った?」


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