さよなら、片想い
 さて問題の写真だ。恐る恐る、今のページを開いた。

 忘年会の写真っぽくないというか……まるでふたりで出かけた先で撮ったみたいだった。
 身体のどこかが触れていたわけではないし、並んだ距離だって近すぎとは思えない。ごく普通の距離にあった。
 なのに、猛烈に照れくさかった。
 これが他部署にも同じ部の人にも回ったかと思うと顔が熱くなった。

 今更ながらそっとページを繰る。
 意匠部は回覧が済んでいるようで、この写真の注文欄に岸さんの名前が入っていた。しゅっと流れるような神経質そうな文字だ。

 先に見たなら、カメラの管理が意匠部なら、岸さんのところに行った時点でどうしてこの一枚を抜き取ってくれなかったのだろうと岸さんを恨めしく思った。
 だからというわけではないけれど、他に岸さんがどんな写真を注文したのか、興味本位で探ってやった。

 私が撮ってあげた写真もプリントアウトされていた。
 岸さんからカメラを奪って、近くにいた人たちに声を掛けたときのものだ。
 岸さんを含め、それなりによく撮れていた。
 みんな笑顔だったし、頭が欠けている人もいない。
 ピントはたぶん合っているし、手ブレもしていない。

 なのに、岸さんが注文した形跡はどこにもなかった。
 折角うまく撮ってあげたのに失礼な話だ。あとで文句言ってやろう。


 ところが、私の手は今度は違う意味でまた止まってしまった。
 岸さんが頼んだ写真は、私とふたりで写っているその一枚きりだった。

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