ねぇ・・君!
茶屋町オフィスの仲間がお見舞い
清香が切迫流産と診断されたことで
京都の実家に入院をさせた英明だが、
夫婦で暮らしている家に帰っても
清香の声が聞こえないことが
寂しく感じていた。
苦肉の策として清香を入院をさせたが
毎日愛しい妻がいないことが寂しいもの
だとは思ってもみなかったのだ。
そんな英明を、茶屋町オフィスの仲間は
心配をしていた。
とくに恭輔、雪恵、沙織は
既存の仲間だけに英明に何かあったのか
心配の声が上がっていた。
それは、孝之、香菜、夏子、優子も
同じことを考えていた。
「課長、元気がないですね。
清香さんに何かあったのかしら?」
「そうだな、子供が来年の春に
生まれるんだって喜んでいたのにな」
「どんな時も清香ちゃんと一緒だから
課長に何かあったか気になるわね」
「雪恵さん、もしかしたら
赤ちゃんのことで心配事が
できたんじゃないですか?」
「そうね、もし赤ちゃんのことで
心配事ができたなら清香ちゃんの
入院が考えられるわね」
「入院って、流産したとかですか?」
「産婦人科で入院する場合は、
流産だけでなく切迫流産もあるのよ。
確か、清香ちゃんは妊娠2カ月だから
考えられるとしたら切迫流産の
可能性が高いわね」
「どちらにしても、課長にしては
非常事態だな。さすが、雪恵さん。
看護師の経験がモノを言いましたね」
恭輔と雪絵は、それぞれ結婚をして
家庭を持っている。
しかし、雪恵は子供を産むことが
できないと医師から診断を受けていた。
それを承知の上で結婚をしてくれた
夫には感謝をしていた。
そして、清香に子供ができたことを
誰よりも喜んだのも雪恵だったのだ。
雪恵にとって、清香は有能な後輩だけ
でなく自分の妹のような存在で
あったのだ。それだからこそ、
清香が英明と結婚をした時は
自分のことのように喜んだのだ。
「恭輔さん、課長には内緒で
清香さんのお見舞いに行きませんか?」
そう言ったのは孝之であった。
「そうだな、課長に内緒で行ってみるか」
「確か、清香ちゃんの実家は
京都の河原町だったわよ」
「さすが、雪恵さん。情報通ですね」
「大抵、清香ちゃんの筆跡で
年賀状と暑中見舞いをもらうのよね。
いつも、京都の観光名所で撮った
写真で送ってきているから」
そんな話のなかで香菜、夏子、
優子、沙織も計画に加わっていた。
そして、計画を行動に起こす時がきた。
この日は日曜日で、
茶屋町オフィスの仲間が
阪急京都線のホームに集合をしていた。
「みんな、これは課長に内緒の
サプライズだ。それに、清香さんに
久しぶりに会えるんだからな」
そして、恭輔をはじめとする
茶屋町オフィスの仲間が
京都河原町駅に行く特急に乗った。
全員が特急に乗ったことを
確認をしたところで恭輔は
雪恵に確認をした。
「雪恵さん、清香さんの入院をしている
病院はわかりましたか?」
「河原町の駅を出てすぐのところに
大学病院があるそうなの。
おそらく、そこに入院して
いるんじゃないかしら。
そこの病院は、清香ちゃんの
実家から近い距離なの」
「そうですか、了解しました。
みんな、清香さんの入院先がわかったぞ。
河原町の駅の近くの大学病院だ。
駅に着いたらタクシーで10分だそうだ」
そんな恭輔たちの計画を知らない英明は、
清香の入院している大学病院にいた。
清香の点滴をしている腕が
痛々しく感じていた。
これも自分の試練なのだろうか?
かつて、英明は寿子と結婚をして
性格の不一致で離婚をした。
そして、離婚をして3年後に
清香と再婚をした。
その清香から妊娠の知らせを
聞いた時はうれしかった。
子供を持って幸せにしたいと
思っていた矢先に清香が切迫流産の
危険があると医師からの診断を受けた。
清香と産まれてくる我が子を守りたい。
苦肉の策として清香を入院させたが
英明自身は不安でしかたなかった。
そんな時だった。
「課長、うちのオフィス全員で
奥さんの清香さんの見舞いに来ましたよ」
と言ったのだ。
「恭輔、どうしてここがわかったんだ!?」
「課長が、元気がなかったので
気になっていたんですよ。
そしたら、オレのほかにも
課長を心配していたのですよ」
清香の病室の外に沙織、雪恵、孝之、
香菜、夏子、優子が来ていたのだ。
英明は驚いた。
「おまえら、みんなで
オレを心配していたのか?」
英明の言葉に雪恵が言った。
「清香ちゃんは、私の妹分ですよ。
その妹分が入院となったら、
姉御としてほっとけないですよ」
「雪恵、おまえ清香を
そこまで信頼していたのか?」
「私だけでなく、ここにいる
茶屋町オフィスの仲間が
清香ちゃんを信頼して来たんですよ」
「恭輔、みんな、ありがとう。
清香のために来てくれてありがとう」
清香が茶屋町オフィスを
結婚退職をしてからも
茶屋町オフィスの仲間たちが
清香を慕ってくれていることに
英明は感謝をしていた。
「オレは、おまえたちのような
部下を持って幸せだよ。
そして、オレの妻清香を
忘れないでいてくれてうれしいよ。
恭輔、雪恵、沙織、孝之、香菜、
夏子、優子、ありがとう」
英明は、自分の部下が妻のために
集まってくれたことに感謝をしていた。
< 31 / 54 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop