ねぇ・・君!
陽炎を見た夢の中
今年も去年と同様に空梅雨で
終わった夏の炎天下の日。
この時、大阪は高槻を中心に
地震が起こって通勤の心臓ともいえる
列車が止まりタクシーが長蛇の列に
なるという事態になった。
それだけではない。
四国地方と中国地方に集中豪雨が
あったことで避難生活を余儀なくされる
という事態が起こったのだ。
高槻は、かつて英明が高槻オフィス
として仕事をしただけあって
清香は、英明の思い出のオフィスが
致命的になっていることに
ショックを受けていた。
それを感じていたのは、
恭輔、雪恵、沙織も同じであった。
かつて、英明と一緒に築き上げてきた
高槻オフィスが簡単に崩れていったことに
ショックを隠し切れなかった。
それは、英明も同じであった。
今の茶屋町オフィスに移転になる前に
高槻オフィスで仲間たちと仕事をした
思い出の場所。
その思い出を知っている恭輔、
雪恵、沙織と一緒に茶屋町オフィスに
移転という形で来た。
そして、茶屋町オフィスで
新しくスタートをする時に
孝之、香菜、夏子、清香が
新しく仲間として入ったこと。
そして、英明が清香の優しい心遣いに
上司と部下ではなく清香を一人の女性
として恋をして結婚をした。
しかし、その清香が切迫流産という
危険にあることから清香の実家である
京都の大学病院に入院をさせることに
なった。
そのことが理由からか、
英明が大きな仕事を何件もこなしていた。
それは、清香が自宅にいない寂しさを
紛らせているかのようであった。
しかし、その状況は恭輔や他の仲間にも
わかってしまうことになってしまった。
この時、英明の疲労がピークに
達していたのだろう。
恭輔が、英明を心配してこう言ったのだ。
「課長、お疲れじゃないんですか?
今日は、無理をしないで
早退してください」
それを聞いた沙織も言った。
「課長、ここしばらく
炎天下が続いています。
今日の営業は、孝之くんと香菜ちゃんに
代理に入ってもらいます。
ですから、無理をしないでください」
「恭輔、沙織、心配をするな。
これくらい、たいしたはことない」
そう言った英明であるが、
突然のめまいで英明は
倒れてしまったのだ。
恭輔は、クーラーの効いた応接室に
孝之と一緒に英明を運んでいた。
雪恵は、英明が炎天下での熱中症である
と判断をして救急車を手配をした。
救急車が来る前に、応急処置として
英明に水分補給をするように
恭輔に伝えた。
そして、救急車が茶屋町オフィスに来た。
「これから、大阪中央病院に
搬送をします。
付き添いの方、1名お願いします」
そこで、恭輔が英明の付き添いとして
救急車に乗った。
やがて、大阪中央病院に運ばれた
英明の問診の時に、恭輔が現在清香が
切迫流産のため、京都の大学病院に
入院をしていることを看護師に伝えた。
そして、このことは
清香の実家の両親にも告げられた。
「清香には、とても告げられない」
「そうよね、おなかの赤ちゃんが
落ち着いただけに
不安をあおってしまうわ」
清香の両親は、英明が熱中症で
点滴治療を受けていることを
清香には伏せることにした。
そんななかで、英明は夢を見ていた。
陽炎が見えたなかで
梅の木の精霊が現れたのだ。
梅の木の精霊は、英明にこう言った。
「あなたのお子様は、
私たちがお守りしています。
私たちが、奥さまに
元気なお子様を授けます」
英明が梅の木の精霊に
何かを言おうとした時に目が覚めた。
その時、吹田にいる英明の両親と
みなべ町の英明の姉が来ていたのだ。
「姉ちゃん、なんでここに?」
「なんで、じゃないわよ!
京都にいる清香ちゃんの
お母さんから連絡があったのよ。
清香ちゃんが直接行けないから代わりに
様子を見てきてほしいって言ったのよ」
「清香は、どうなったんだ?」
「清香ちゃんは、大丈夫だよ。
おなかの赤ちゃんも落ち着いたそうよ」
「姉ちゃん、オレ夢を見たんだ。
梅の木の精霊が出てきて、
清香に元気な子供を授けるって
言ってくれたんだ」
「それ、梅の木の精霊からのお告げだよ。
あんたが、清香ちゃんのことで
不安になっているのはわかる。
だけどね、清香ちゃんは
英明あんたからもらった小さな命を
産もうとしているんだよ。
梅の木の精霊からお告げがあったことは、
あんたが子供を持つことになるんだよ。
あたしはね、あんたの手紙に
末っ子だからという甘えは捨てて
父親として強くなれと書いた。
それはね、あんたが清香ちゃんと
寄り添って生きていけって
意味で書いたの」
陽炎のなかで見た夢が正夢ならば
子供を自分の手に抱くことができる。
姉の言うように梅の木の精霊のお告げ
ならば産まれてくる我が子を抱ける。
「姉ちゃん、清香に子供が生まれたら
みなべ町に行って梅の木の精霊を
まつっている観音様にお礼参りをしたい」
「それならば、あたしが代わりに
お礼参りをするよ。
今は、清香ちゃんが元気な子を
産むことを祈っているよ」
「ありがとう、姉ちゃん」
昔のように優しい姉の言葉に
英明は涙を流していた。
清香に宿っている子供は、
梅の木の精霊が守ってくれている。
陽炎を見た夢の中でのお告げに
清香の無事を祈っていた英明であった。
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