ねぇ・・君!
盆休みに妻を見舞った時
8月に入って会社が盆休みに
なったことを利用して英明は、
京都の大学病院に入院している
清香を見舞っていた。
この時、清香はいまだに
入院を余儀なくされていた。
しかし、4人部屋で入った
病室で仲良くなった女性と
話をすることになってから
元の明るさを取り戻していた。
4人部屋にいる人のには、
切迫早産で出産をしたものの
子供が死産をした人がいたのだ。
そんな話を清香から聞いた英明は、
自分の我が子が同じことに
ならないか不安であった。
「お子様は、私たちがお守りしています」
そう言った梅の木の精霊の言葉が
英明の脳裏に焼き付いていた。
「梅の木の精霊から御告げを
もらったなら、あんたに
子供が授かるということだよ。
これを機会に、清香ちゃんと
寄り添って生きていくんだよ」
これは、自分が熱中症で倒れた時に
英明の姉から言った言葉であった。
「清香、オレは盆休みの間毎日来るよ」
「あなた、私のことより
長野のお義父さんとお義母さんに
顔を出してあげてください」
「おまえは、自分のことよりも
人のことを心配する。
オレのおやじとおふくろは、
初孫が生まれるのがうれしくて
しかたがないんだ。
オレは、前妻とは子供が
いなかっただけに、
これから生まれてくる
我が子が待ち遠しいんだ。
清香、何も心配しないで
元気な子供を産んでくれ」
これは、英明の本当の気持ちであった。
清香に元気な子供を産んでほしい。
そして、生まれてきた子供を
自分の手に抱きたい。
それは、英明が思い描いていた
夫婦としての夢であった。
そんななかで、英明は清香の実家に来て
庭から見える花火を見ていた。
そして、外には夏祭りのおはやしが
にぎわっていた。
「英明くん、一杯飲むか」
英明は、清香の父からグラスに
ビールを注いてもらっていた。
「英明くん、キミは清香を
嫁に出した時から俺の息子だ。
清香の弟である貴志は、
高校生で酒は飲めない。
だから、俺には酒を一緒に飲める
息子ができたのがうれしいんだ」
英明は、清香の父が自分を娘婿ではなく
実の息子として気にかけてくれることを
うれしく思っていた。
「英明くん、今の医療は
昔と比べて発展している。
清香が入院していることで
不安になっていると思うが
初孫は、必ず生まれると俺は信じている」
この時、テーブルに
枝豆とスイカが並んでいた。
スイカは、清香の弟貴志の好物である。
スイカを頬張る貴志の姿を見て、
英明は子供の時の
懐かしい頃と重ねて見えた。
「これからは、清香ちゃんと
夫婦で歩いていくのよ」
この言葉は、英明の姉が
結婚式前の結納の時に
英明に言った言葉であった。
再婚であったにもかかわらず、
自分についてきた愛妻清香が
愛おしくてたまらなかった。
そして、この花火を庭で見て
心が和んできた英明であった。
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