ねぇ・・君!
通り雨と妻の番傘
梅雨明けとは言えない夏の日であった。
英明は、この時自分の仕事を終えて
自宅に戻る電車に乗っていた。
しかし、電車に乗った時に
雷雨になり強い雨に変わっていた。
この時、英明は自分の傘を
会社に置いて帰ってしまった。
「あなた、今日は雨が降るから
傘を忘れないでね」
と清香に言われて傘を持って出てきた。
しかし、雨が降らなかったので
自分の傘を会社に置いてきた。
「清香が言ったことあたったな」
そう思った英明は、自分の携帯から
自宅にいる清香に電話を入れた。
「もしもし、長野でございます」
「清香、オレ英明だ」
「あなた、どうしたんですか?」
「オレ、ドジって傘を置いてきたんだ。
悪いが、迎えに来てくれないか?」
「いいけど、何時に駅に着くの?」
「いつもの急行列車で帰ってきている。
蛍池に着くのは7時頃になる」
「わかった、駅まで迎えに行くわ」
清香は、英明の傘を持って
憲司を連れて蛍池駅に向かっていた。
この時、憲司は生後4カ月になっていた。
「憲司、ベビーカーに乗っていてね」
この夏で蒸し暑いだけに
清香は憲司のためにベビーカーの
背もたれに冷却シートを入れていた。
そして、ベビーカーに
雨よけのシートを被せた。
出かける準備ができたところで、
清香は憲司をのせた
ベビーカーを押して
駅の改札口に来ていた。
「おーいっ、清香!」
英明は、改札口にいる清香を見つけた。
「あなた、おかえりなさい」
「すまない、ドジって傘を置いてきたよ。
憲司と一緒に来たのか?」
「うん、パパのお迎えだから
連れてきたわ。
あなた、雨に濡れるから
傘を持ってきたわ」
英明は、清香から傘を受け取っていた。
そして、傘をさすと清香に
傘をさすように促した。
この時の清香は、番傘をさしていた。
この番傘は、芸妓夢乃の
プレゼントであった。
「清香、その番傘きれいだな。
京都でおまえと
デートした時を思い出すよ」
「あなた、初めて行った
嵯峨野が懐かしいわね」
「そうだな、あれから1年になるんだな」
「あなた、私たちの結婚記念日を
覚えていてくれたの?」
「もちろんだ、おまえと結婚をしたことは
オレにとって幸せなことはない。
清香、これからも夫婦で歩いていこう」
英明の言葉は、清香が自分とともに
歩いたことへの感謝の気持ちであった。
これからも清香と歩いていく。
そう信じてやまない英明であった。
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