キス時々恋心

「……そうね。ユ……ユキ」

初音はぎこちなく彼の名を呼んだ。
親戚でもない男の人の事を呼び捨てするなんて初めてだった。

「じゃあ、そういう事で花火しに行こう」

雪次郎は手持ち花火が入ったビニール袋を顔の前で掲げて、浜辺の方へ足を進める。
初音はその半歩後ろをついて歩いた。
二人は浜辺に続く段差をおりて、花火を始める準備をした。
各々(おのおの)好みの花火を一本ずつ手に取り、雪次郎がチャッカマンを構える。

「火、付けるよ」
「うん」

花火に炎が触れる瞬間、初音は妙に緊張した。
シュボッと音をたてて花火に着火する。
花のように広がった炎が暗い夜の景色に溶け込んだ。

「わぁっ!綺麗!」

初音は思わず声を上げた。
自然と口に出た感想だった。


「パパ!花火!」

遠くから聞こえた女の子の声。

「アキなのに花火!」

次に男の子の声。

火のついた花火を持ちながら初音が視線を向けると、そこには子犬の散歩をしている親子連れが歩いていた。
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