キス時々恋心

「良かった。また僕を選んでくれて本当にありがとう。あの時のお詫びに今夜はうんとサービスするから。さぁ、これからどこに行こうか。フレンチ?それとも映画?」

遼が明るくものを言う。
品のある格好と物腰の柔らかい話し方はまさに初音の理想とするタイプそのもの。

もしもあの日、雪次郎ではなく彼とデートをしていたら今の自分は無かった。
フレンチも映画も大人の恋愛もどうでもいいなんて思う日は来なかったと思う。

「…………」

しかし、もう手遅れだ。
初音は下を俯いたまま黙り込んだ。

そんな彼女の姿を遼は横目で確認する。
とくに何も言わず、車移動を続けた。
十分ほど車で走って着いたのは、ある有名ホテルの地下駐車場だった。

「えっと……ここは……」

初音は急に不安に駆られた。

「勘違いしないで。このホテルの中に僕の行きつけのバーがあるんだ。そこなら、静かな落ち着いた場所でゆっくり話ができる」

遼には何もかもお見通しだったよう。
一瞬でも変な勘違いをした自分を初音は恥じた。
遼は一足先に車を降りて「さぁ、行こうか」と初音を促した。
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