かすみ草の花束を。


「…何もしなくていいから」

「え…」

「俺のことで何かしようとか思わなくていい。

…あんたのその気持ちだけで、俺は大丈夫」

「何、言ってるんですか…?」

あぁ、ほんとだよ。
俺もよくわかんねぇ……

「何言ってんだろうな…あんたのせいでバカ正直が移ったっぽい」

そう言うと、なぜか俺の口角が少し上がった気がした。
完全に無意識だ。

「黒崎先輩が、笑ってる…!」

「純が、わら…っ!?」

町野と正人が俺を見て驚いているが、たぶん俺の顔は笑ってるんだろう。

「いつぶりだろ…純の笑った顔なんて…」

正人の隣で思う。
本当にいつぶりだろうかと。

正直、笑っている自覚がない。
目の前にいるこいつがいると勝手に顔が緩くなるだけで。

母親が死んでから笑ってた時期だってあったけど、もうそのときのことも遠い昔のことみたいだ。
どんな風に笑っていたかなんて思い出せない。 いや…思い出したくなかったのかもしれない。

「俺も惚れそう」

「や、やめて下さい…! 流川先輩相手じゃ、私確実に負けちゃいます…!」

「俺はそんな趣味はねぇぞ」

「わっ!先輩のその睨んだ目っ、かっこよすぎる〜〜!」

正人をいつもの感じで睨むと、目の前では高い声ではしゃぐヤツがいるし。
はぁ…俺のどこがかっこいいんだよ……

「あのさ、そういうの口に出して言うのやめてくれる? こっちが恥ずい…」

俺は机に肘をついて手で顔を隠すようにそっぽを向いた。
熱くなる顔を隠すために。ーー


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