かすみ草の花束を。

純side



「……?」

鍵を開けて家に入ると、美味しそうな飯の匂いが微かにする。

「父さんがなんか作ったのか…?」

にしても作ったものは見当たらない上に、調理するのに使うであろう器具は使っていないように見える。

俺の鼻がおかしくなったのかと思いながら冷蔵庫を開けると、2人分盛り付けられた炒飯が入っていた。

これ…父さんが…?
あの人、こんな料理うまかったか…?

俺は不審に思いながらも腹の虫は抑えられないので、その炒飯をひとつ取り出しレンジで温める。

チンと音が鳴ったレンジを開け、温まった炒飯をテーブルに置き「いただきます」と言って一口食べた。

「…うま」

ほんとに父さんが作ったのか…?

俺は更に不審に思ったが炒飯を口に入れる手は止まらない。

こっそり料理教室でも通い始めたとか?

昔少しだけ言っていた。
笑って、だけど切なそうに…「父さん、料理教室でも通おうかな」と。

俺は、父さんの気持ちも、母さんの気持ちも、全くと言っていいほどわからなかった。
わかろうとしなかった。

俺を生んだことで母が死ぬということを、ずっと黙ってたことも、俺を生んだ理由も何もかも。

そこは暗くて、歩くと沼みたいで、俺はただ沈んでいく。
心は、ないほうが楽だった。

全部消してしまえば悲しみも苦しみも感じない。

感情も、欲も、全部捨ててしまえばいい。

それでいい。
全部がどうでもいい。

ここから引っ越すまで、ずっとそう思ってた。

なのにあの日、心が真っ暗だった俺の中に…突然何かが入ってきたんだ……


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