かすみ草の花束を。


「先輩…好き…」

「…っ…」

「大好き…」

………ガタン…

「…………」

「…ん」

「……っ!?」

俺、今何…してた…?

…頬を触って、涙を拭いて……こいつに…キス、しようとした…?ーー

…違う…

俺は今まで誰かに欲情なんてしたことはないし、誰かにキスしたいだなんて思ったこともない。

じゃあ、今俺がしようとしたことは…なんなんだ…?

俺は自分に驚き、動揺する。

今のは、俺の欲なのか…?
ただ、無性にこいつに触りたくてしょうがない。

…俺だから大丈夫…?
俺が一番、何するかわかんねぇじゃねーか……

それに…

「もう…言わないんじゃなかったのか?」

動物園に行った帰り、言われた言葉。

" もう…大好きなんて、言いませんから…っ "

今にも涙が流れそうな大きな目で、震えた声で、こいつはそう言ったんだ。

本当は抱きしめたかった。
この小さな体を、俺の腕の中で守れたならどんなに良かっただろう……

けど、これでいい。

こいつは太陽の下に…ずっといてほしい。

優しい家族や友達に囲まれて、花みたいな笑顔で笑っていてほしい。


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