かすみ草の花束を。
「見てないですから。 泣いていいですよ」
「…っ…だ、めです…お断りしたのに、私のほうが泣くだなんて…ありえない…」
フった相手が泣いて、フラれたほうが慰めるだなんて…そんなひどい話はない。
「いいんです…フラれるってわかってましたから。
ただ周りが急に告白しだして、他の人に取られでもしたらそれこそアホらしいんで。
俺…黒崎先輩を必死になって追いかけてる花咲さんを、好きになったんです」
「…っ」
私の顔を見ないようにして話してくれるその人は、なんて律儀で、誠実な人なんだろう…。
この人は、私のことを好きだと言ってくれた。
フラれても気遣ってくれる。
まっすぐに思ってることを伝えてくれる、優しい人だ。
それなのに、どうして私は黒崎先輩じゃないとダメなの…?
どうして思い浮かぶのは、いつも黒崎先輩なの…?
「まだ花咲さんの中には、黒崎先輩がいますよね…?
何があったのか知りませんが、辛いときはその、相談とか…のりますし…元気、出して下さい」
きっと言葉を選びながら、一生懸命励まそうとしてくれてるであろう横顔を見ていると、目に溜まっていた涙は引いていった。
「…もうこっち見ても、大丈夫ですよ」
「……」
そう言うと、私の頭に乗っていた手は離れ、目の前の彼と視線が合う。
「黒崎先輩のことを好きな私を、好きだって言ってくれて…ありがとう」
少しだけ肯定された気がした。
黒崎先輩のことを好きでもいいよ、って…言ってもらえてるような気がしたんだ。