かすみ草の花束を。
「…………」
俺は無意識に、縁側のほうで師匠と楽しそうにしている花咲の姿を見た。
「完全に欲まみれな私って…、俺思わず笑いそうになったよ」
そう言って冬夜は顔を抑えて笑っている。
「それのどこが欲まみれなのかね?
世の中にはもっとドロドロした欲まみれな人だっているってのに。
…花咲ちゃんて、心が綺麗すぎるっていうか真っ白っていうか……とてつもなく…、いい子だな」
「…うん」
ほんとにそう思う。
あいつには汚いものがない。
汚くて黒くなった俺を、いつも洗ってくれるんだ。
「俺が中学の頃さ、純に話聞いてもらいたくて会いに行っただろ?
それ、親が離婚することになったって純に話したくてさ」
「…っ…! 俺のせい」
「違うし! もともとケンカばっかしてたんだ…純は全く関係ない」
俺の言葉を遮るように、冬夜は声をかぶせた。
「むしろ純の母ちゃんの話聞いて、俺も逃げてばっかじゃいられないって思えた。
だから、ありがとな…!って、ずっと言いたかったんだ……」
「……冬夜…今までほんとにごめん…ずっと、信じて待っててくれて…ありがとう。
昔も、今も…俺を思っててくれて、ありがとう」
何も知らなかった冬夜の考えや気持ち。
俺は今まで、自分ひとりで生きてきたと思ってたけど、そうじゃなかった。
全然、そうじゃなかったんだ……
たくさん守られて、知らないところで助けられながら、俺はひとりで生きてる気になってただけで。
自分を悪者にしてラクしてた。
それが逃げ道だったんだ。
周りが傷つかないようにじゃなく、本当はただ自分が傷つかないように隠れてただけ。
そんな自分がすげーかっこ悪いけど、大事なことがなんなのかやっとわかった。
自分のせいにして、逃げない。
大事な人のそばにいる。
俺の笑顔を見たら、自分のことのように喜んでくれるやつのそばに…ずっと……ーー