かすみ草の花束を。
純side
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「黒崎先輩! こっちです!」
裏庭に出たかと思えば突然走り出し、あいつはもう大きな木の間に置かれているベンチまで辿り着いて座っている。
ほんと、足だけは速い。
…いや、声もでかいか。
「ほら、お日様が気持ちいいですよっ 先輩!」
そう言ってるあんたが眩しい……
太陽の下で楽しそうに笑っている後輩を見ていると、周りから愛を十分に受けて育ってきたことがわかる。
それと同時に、俺とは正反対の人間だということも。
「先輩! ここ座って下さい! あ、1メートルの距離はちゃんと開けますので、安心して下さい!
変態なことは断じてしませんので…!」
俺が近くまで行くと、こいつは俺の分の弁当を1メートルほど離れたベンチの上に置く。
先に守れなくなったのは俺のほうだった。
勝手に体が動く。
今朝だってなぜかムカついて苛立って…
"残念だったな。 こいつは俺のことが好きなんだと"
あんなに信じれるかと思っていた言葉が、自分の口から出ていたのだ。
こいつが1年で人気の女子だということもわかっている。
だからこそ、なんで俺なんかを好きなのかわからない。
太陽の下でニコニコ笑ってる元気なやつが、よりにもよってなぜ俺なのかと…。
ーー1メートルの距離。
さっきまで1メートルより近くにいたせいか、どこかもどかしく思えた。
俺のほうがこいつに近づきたいみたいじゃねぇか……