嘘つきシンデレラ




グレーのチェスターコートに




黒い薄手のニットとデニム姿で、




社長が立っている。




潮風に少し髪が揺られて




ここからじゃ、表情は見えない。




なのに、社長のその存在感に




肌にピリって、電気が走ったように




緊張する。




ああ、やっぱり




私は、社長がこわい。




社長の姿を見るだけで




社長に見つめられるだけで




こんなに心が




かき乱されて。




痛みに




しんどくなる。




まだ




社長にわたしをこんなに




傷つけるちからがあることが




こわいよ。




早くしないと




このまま動けなくなってしまいそうで




さとみは力の入らない足で立ち上がる。




引っ張るように歩く太郎を連れて




歩き出す。



ドキン



ドキン




早鐘を打つ鼓動を無視する。




ほんとは走りだしたいくらいだけど。




視線は外したまま。




社長との距離が近づいて




社長の視線を意識しないのは難しくて





逃げるように去りたかったのに、




裏切り者の太郎が社長にじゃれついた。




お腹まで見せて




太郎の裏切り者!




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