探偵さんの、宝物
 ――そんなタイミングで、部屋の外から「失礼します」と声が掛けられた。店員さんが料理を運んできたらしい。

「わぁ、美味しそうですね!」

 見た目も美しいサラダやパスタが届き、私は感嘆の声を漏らした。
 楓堂さんは少し口の端を上げて「そうですね」と頷いた。
 二人の分が揃ってから、頂きます、と言って食べ始める。
 料理について話して、お腹に美味しい物が入って、部屋の空気が柔らかくなっていくような感じがした。

「あの、思い出せなくて本当に申し訳ないんですが。
 私たち、どこで会ったんでしょう?」

 私は先日からずっと気になっていることを聞いてみた。

 ランチコースはデザートに入り、私たちはコーヒーを飲みながらグラスに入ったヘーゼルナッツのジェラートを食べている。このジェラートは素材がたっぷり使われているのか、香ばしい風味がしてとても好みだ。
 ――このコーヒーカップもグラスも、夢で見たものと同じだ。

「本当に思い出せませんか?
 良く見て下さい」
 どうぞ、とばかりに軽く前に身を乗り出してくる楓堂さん。

 いや、ちょっと待って。緊張が解けてきたとは言え、良く見るなんて難易度が高すぎる。
 恥ずかしくて直視できず、ぱっと目を逸らしてしまう。

 それでも楓堂さんがじっとこちらを見て動かないので、気恥ずかしさに耐えて少しずつ輪郭をなぞっていく。

 ――あ、この目元。見覚えがある気がする?

「やはり、思い出せませんかね。
 それなら少し、想い出話を聞いてくれませんか?
 ……僕が探偵になった理由を」

 楓堂さんは軽くため息をつき、背もたれに体を預けてそう言った。
 探偵になった理由。そこにヒントがあるのだろうか。

「はい、ぜひ聞かせてください」

 私が姿勢を正して興味津々に言うと、彼は頷いてから話し始めた。

「僕が小学生の時、家は神奈川にあったのですが、夏休みは東京に住む祖父の家に遊びに来ていました。
 そうして遊びに来た三年生の夏、祖父から貰った宝物のトイカメラを失くして困っていると、二つ上のお姉さんが声を掛けてくれました」

「あ」
 焼けたアスファルトの上、植え込みを覗いて歩く男の子の姿が脳裏に浮かんだ。流れ込む様に、フルカラーの記憶が蘇ってゆく。
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