探偵さんの、宝物
***
「取った!」
真昼の公園。
黄色いトイカメラを高々と掲げ、額に汗を垂らして叫ぶ私は、もう片方の手で年下の男の子と手を繋いでいた。
――そんな夢を見た、小学五年の夏休み。
太陽が人を殺しに来たような日だった。
アイスを買って食べた帰り道。焼けたアスファルトの上、植え込みを覗いて歩く子供を見付けた。
私より小さくて、肌の焼けた男の子。
夢に出てきた子だった。
「ねぇ、何してるの?」
「宝物、失くした」
「宝物って何?」
「お祖父ちゃんがくれた、トイカメラ」
照れているのか、ぶっきらぼうに喋るのが可愛かった。
「じゃあ、一緒に探してあげる。名前は?」
「楓堂昴」
「すばる君ね。私は尾花結月、五年生」
手を繋いですばる君を引っ張る。
「絶対見つけてあげるから」
はっきりと、見付ける自信があった。私が見る夢はいつも、本当になるから。
お母さんが観ているドラマの中の探偵になった気分で、自信満々に歩いて行く。すばる君は不思議そうな顔をしていたけど、素直についてきてくれた。
「……あったね」
うちの学校の児童がよく集まる公園に着く。
この暑いのに、うちのクラスの男子が五人、騒いで遊んでいた。
その一人が黄色くて可愛いトイカメラを持っている。
「あれだよね?」
「うん、でもあの人、返してくれるかな……」
その人は体が大きくて運動も出来て、クラスの中でも威張っている存在だった。しかも彼は私を目の敵にして、いつも嫌がらせをしてくる。
でも、この子の為に取り返さないといけない。
「それ、返して」
私は勇気を出して言う。
でも小さな声でもごもごと言ってしまい、聞こえなかったらしい。
「それ、返して!」
甲高い声で叫ぶと、全員が一斉にこちらに振り向いた。
「あ、エスパー女!」
「バーカ、取れるもんなら取ってみろ」
震えていた。
でも、あんなに乱暴に扱われたらこの子の宝物が壊されてしまうかもしれない。
私は拳を握り、集中する。
――もう一人の私が、後ろからカメラを奪い、こちらに駆けてくるイメージ。
「なんだよ……あっ!」
彼の手の中からふわりとカメラが浮き、こちらに向かって飛んできた。
私はしっかりと受け取る。
高々と、カメラを掲げた。レンズに刺さった日が煌めいた。
「取った!」
額から汗を垂らし、肩で息をしながら、にやりと笑って言ってやった。
彼らは最初すごく驚いていた。それが段々と怒りに変わる。
「てめぇ……!」
「結月、逃げよう!」
すばる君が手を引いて、私もそれに従って駆け出した。
めちゃくちゃに走って、川の近くまで来ていた。
緑が綺麗な桜の木の陰に入り、二人で息を整える。
「ありがとう。結月ってすごいね、格好良かった!」
「格好良い? 私が?」
言われて、きょとんとした。
本当はかなり怖がってたんだけどな。でも、悪い気はしなかった。
「ねぇ、どうして場所が分かったの?
それに、なんでカメラが飛んできたの? マジックみたいに!」
木漏れ日を乗せた黒髪と、きらきらした瞳が眩しかった。
「うーん、それは……」
超能力者って言って、分かってくれるかな?
それよりもっと別の、何か格好いい事を言おうと思って色々と考えた。
そして私は何か言った。何と言ったのかは忘れてしまった。
「取った!」
真昼の公園。
黄色いトイカメラを高々と掲げ、額に汗を垂らして叫ぶ私は、もう片方の手で年下の男の子と手を繋いでいた。
――そんな夢を見た、小学五年の夏休み。
太陽が人を殺しに来たような日だった。
アイスを買って食べた帰り道。焼けたアスファルトの上、植え込みを覗いて歩く子供を見付けた。
私より小さくて、肌の焼けた男の子。
夢に出てきた子だった。
「ねぇ、何してるの?」
「宝物、失くした」
「宝物って何?」
「お祖父ちゃんがくれた、トイカメラ」
照れているのか、ぶっきらぼうに喋るのが可愛かった。
「じゃあ、一緒に探してあげる。名前は?」
「楓堂昴」
「すばる君ね。私は尾花結月、五年生」
手を繋いですばる君を引っ張る。
「絶対見つけてあげるから」
はっきりと、見付ける自信があった。私が見る夢はいつも、本当になるから。
お母さんが観ているドラマの中の探偵になった気分で、自信満々に歩いて行く。すばる君は不思議そうな顔をしていたけど、素直についてきてくれた。
「……あったね」
うちの学校の児童がよく集まる公園に着く。
この暑いのに、うちのクラスの男子が五人、騒いで遊んでいた。
その一人が黄色くて可愛いトイカメラを持っている。
「あれだよね?」
「うん、でもあの人、返してくれるかな……」
その人は体が大きくて運動も出来て、クラスの中でも威張っている存在だった。しかも彼は私を目の敵にして、いつも嫌がらせをしてくる。
でも、この子の為に取り返さないといけない。
「それ、返して」
私は勇気を出して言う。
でも小さな声でもごもごと言ってしまい、聞こえなかったらしい。
「それ、返して!」
甲高い声で叫ぶと、全員が一斉にこちらに振り向いた。
「あ、エスパー女!」
「バーカ、取れるもんなら取ってみろ」
震えていた。
でも、あんなに乱暴に扱われたらこの子の宝物が壊されてしまうかもしれない。
私は拳を握り、集中する。
――もう一人の私が、後ろからカメラを奪い、こちらに駆けてくるイメージ。
「なんだよ……あっ!」
彼の手の中からふわりとカメラが浮き、こちらに向かって飛んできた。
私はしっかりと受け取る。
高々と、カメラを掲げた。レンズに刺さった日が煌めいた。
「取った!」
額から汗を垂らし、肩で息をしながら、にやりと笑って言ってやった。
彼らは最初すごく驚いていた。それが段々と怒りに変わる。
「てめぇ……!」
「結月、逃げよう!」
すばる君が手を引いて、私もそれに従って駆け出した。
めちゃくちゃに走って、川の近くまで来ていた。
緑が綺麗な桜の木の陰に入り、二人で息を整える。
「ありがとう。結月ってすごいね、格好良かった!」
「格好良い? 私が?」
言われて、きょとんとした。
本当はかなり怖がってたんだけどな。でも、悪い気はしなかった。
「ねぇ、どうして場所が分かったの?
それに、なんでカメラが飛んできたの? マジックみたいに!」
木漏れ日を乗せた黒髪と、きらきらした瞳が眩しかった。
「うーん、それは……」
超能力者って言って、分かってくれるかな?
それよりもっと別の、何か格好いい事を言おうと思って色々と考えた。
そして私は何か言った。何と言ったのかは忘れてしまった。