探偵さんの、宝物
 ――大事件だ。

「これからお世話になります。
 どうぞよろしくお願い致します」

 僕の家に尾花さんがいる。
 スカートスーツを着て髪をまとめた姿の彼女は玄関で頭を下げた。

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 僕は心の中で天高く拳を突き上げ涙を流し幸せを噛み締めた。



 驚くことに、彼女は事務所に入ることを了承してくれた。
 そして本日、十月一日から働いてくれることになった。家中の開け放った窓から良い風が入ってくる日だった。

 僕は彼女を招き入れ、まず事務所の中の案内を始める。
 昨日念入りに掃除したことは言うまでもない。

 玄関の先は廊下になっていて、正面には応接室の扉があり、右に曲がると居住空間になっている。
 尾花さんを案内するのは応接室、作業場として使う書斎、お手洗い、それから応接室と書斎と廊下から繋がるリビングダイニングだ。
 キッチンは普段大して使わないので物が少ないが、ブラジルのレギュラーコーヒーと緑茶の茶葉だけはいつも切らさないで置いてある。

「相談者さんがいらしたら、ここでお茶を淹れてもらってもいいですか?」
「はい!」

 尾花さんは緊張しているらしく、軽く握った拳を胸にあててきょろきょろしている。
 僕もそんな彼女がちょこちょこと後ろをついてくるせいで気もそぞろになり、自分の家なのに道を間違えそうになった。


 一通り終わると、僕は彼女を応接室に連れてきた。
 ここで相談を聞き、契約をし、報告をする仕事の中心的な部屋だ。アンティーク調のローテーブルと、その両側に二人掛けソファが置いてある。僕は尾花さんに座るように勧めた。

「ちょっと待っていて下さい」

 僕は奥の扉から書斎に入り、今日のために用意しておいた『ある物』が入った紙の小箱を机から出す。一度開けて確認し、応接室に戻った。
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