探偵さんの、宝物
尾花さんはソファに手をつき、額に入れて壁に掛けておいた探偵業届出証明書を興味深そうに見ていた。
睫毛の長い横顔が綺麗で、つい声を掛けるのを忘れる。
すると彼女の方が僕に気づいてこちらを向いた。
「あ、じろじろ見てしまってすみませんでした」
「こちらこそ」
「え?」
「いや、何でもありません。
部屋の中の物は自由に見て頂いて大丈夫ですよ」
誤魔化しに咳ばらいを一つ。
僕は向かい側のソファに座り、箱をテーブルの中央に置いた。
「これ、どうぞ」
「えっと、開けていいんですか?」
僕が頷くと、ゆっくりとした動作で白い指が箱に触れる。
彼女は箱を開けて、中身を一枚取り出した。
「わぁ……!」
茶色地に紅葉の描かれた名刺。白い文字で、こう書かれている。
『楓堂探偵事務所 調査員 尾花 結月』
尾花さんは、手に取った名刺を見つめていた。
それから裏側も見る。かざすようにしたり、指で表面をなぞったり。表も裏もくるくると回して何度も見ていた。
「……気に入ってくれました?」
あまりにも目をきらきらさせて名刺を調べるので、そう言ってみた。
大人になった彼女が、新しい物に興味津々の子供に戻ったみたいだった。
「はい、とっても」
彼女は僕を見て、にっこりと笑った。
――それは花屋で見た時とは違う、自然で、素朴で温かくて、彼女の本当の姿を見せてくれたような笑みだった。
僕は返事ができなかった。
胸の奥が締めつけられるような感じがした。
紅葉の名刺を持って笑う彼女の画を、記憶に焼き付けた。
睫毛の長い横顔が綺麗で、つい声を掛けるのを忘れる。
すると彼女の方が僕に気づいてこちらを向いた。
「あ、じろじろ見てしまってすみませんでした」
「こちらこそ」
「え?」
「いや、何でもありません。
部屋の中の物は自由に見て頂いて大丈夫ですよ」
誤魔化しに咳ばらいを一つ。
僕は向かい側のソファに座り、箱をテーブルの中央に置いた。
「これ、どうぞ」
「えっと、開けていいんですか?」
僕が頷くと、ゆっくりとした動作で白い指が箱に触れる。
彼女は箱を開けて、中身を一枚取り出した。
「わぁ……!」
茶色地に紅葉の描かれた名刺。白い文字で、こう書かれている。
『楓堂探偵事務所 調査員 尾花 結月』
尾花さんは、手に取った名刺を見つめていた。
それから裏側も見る。かざすようにしたり、指で表面をなぞったり。表も裏もくるくると回して何度も見ていた。
「……気に入ってくれました?」
あまりにも目をきらきらさせて名刺を調べるので、そう言ってみた。
大人になった彼女が、新しい物に興味津々の子供に戻ったみたいだった。
「はい、とっても」
彼女は僕を見て、にっこりと笑った。
――それは花屋で見た時とは違う、自然で、素朴で温かくて、彼女の本当の姿を見せてくれたような笑みだった。
僕は返事ができなかった。
胸の奥が締めつけられるような感じがした。
紅葉の名刺を持って笑う彼女の画を、記憶に焼き付けた。