探偵さんの、宝物
 それでも仕方なく楓堂さんについて車を出て階段を登る。それ以外に選択肢は無かった。

 部屋に入ってすぐ、ドアの横に精算機と料金表があった。 
 背後でドアが閉まると、がちゃりと音がした。嫌な予感がしてドアノブをひねると案の定びくともしない。どうやらお金を払わないと外に出られない仕様らしい。

 密室に二人で閉じ込められていると実感して、心臓が変な音を立てた。

 奥へ進む、部屋は薄暗い。大きなベッドの頭側にある間接照明だけが点いている。
 小さなソファとローテーブルもあり、ぱっと見ると内装は普通のホテルと大差無い感じだ。
 
 楓堂さんはさっさとソファに座り、ノートパソコンを取り出して電源を入れた。

「カメラは遠隔操作できるので、証拠は逃しません。バッテリーも容量も十二分です」
「なるほど……」
「対象者が車に乗り込んだら、僕らもここを出て追跡します。休んでいてもらっていいですが、いつでも出られるようにはしておいて下さい」
「は、はい」

 覗き込むと、対象者の部屋の車庫を映す、二つの違うアングルの画面が表示されていた。

 そうか、楓堂さんは完全にお仕事モードなんだ。いや、当たり前だけど。
 場所を意識しているのは自分だけなんだなと思うと何だか悔しかった。

 私はこの歳で初めて来たけど、楓堂さんは慣れてるのかな。
 仕事や、プライベートで……?

 ――プライベート、か。
 まぁ、もう二十六歳だもんね、あって普通だよね。
 あの可愛かったすばる君はもういないのかなと思うと、少し寂しいけれど。



 私は真剣にモニターを見る楓堂さんから離れ、物珍しさから部屋の探索を始めた。

 あ、冷蔵庫もある。本当にホテルみたいだな、と思って開けてみた。
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