探偵さんの、宝物
 冷蔵庫を開けると、涼しくなかった。

 中は区切られており、各スペースには蓋がしてあり、値段が書いてある。
 千八百円、二千四百円、などの値札。飲み物にしては高すぎると思ったけど、すぐに意味が分かった。

 値札の向こうには、何やらピンク色をしたものが。それらはすごい形をした大人の玩具や特殊な避妊具だった。

 ……やめよう。この部屋の調査は危険すぎる。
 私は遠い目をして販売機を閉めた。

 楓堂さんは今は依頼者さんに電話で報告をしているらしい。
 取り敢えずお手洗いでも行っておこう。

 と、思ったけれど。
 何故かトイレに鍵がついてない。この仕様にはどういう意味があるの……?
 仕方なく、楓堂さんが電話している内にとドアの前にトイレ内にあった籠を置いて済ませた。

 カーテンすらない脱衣所で手を洗って戻ってくると、楓堂さんは最初と全く同じ姿勢で画面を見つめていた。彫刻のようにじっとして動かない。

「動き、ありました?」
「無いですね。予想では、朝までいるんじゃないかと思ってます。油断は禁物ですが」

 楓堂さんが頑張っているのにベッドで休む、ということも出来ないので、私も隣に座って映像を確認することにした。

 私が近付くと、はっとしたように顔を上げる。
「私も観ます」
「いや、あの。
 ……分かりました」
 楓堂さんは何か言いたげだったけど、席を詰めてくれた。
 私は隣に座る。柔らかく沈んだ座面が温かかった。

 薄暗く狭い部屋で、小さなソファに座り、二人で眩しい画面を見ていた。

 今回のカバーストーリーは『仕事終わりにデートするカップル』だったので、楓堂さんはスーツ姿で、私はブラウスにカーディガンを羽織り、タイトスカートを履いている。
 カバーストーリーというのは、対象者や住民等に怪しまれた時に説明する『設定』のこと。昨日はこの設定を聞いただけでドキドキしていたのに……。

 カメラの映像は変化がない。時折他のお客さんの車が横切るだけだ。画面の時間を見ると二十三時を回っていた。



 ソファは狭く、私たちの太股は軽く触れ合っている。スーツの布とストッキングが擦れる、ざらりとした感覚。
 この部屋の雰囲気のせいだろうか、彼が息をする音だけ聞いていると頭がくらくらしそうだった。
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