探偵さんの、宝物
 尾花さんをホテルの中に連れ込むときは、混乱していたようだったので心配していた。

 いつか仕事中にこういった事態もあるだろうとは思っていたが、初回からとは運が悪かった。防犯意識が強いホテルだったらしい。

 しかし尾花さんはいざ部屋に入ると、歩き回ったりしていて緊張していなさそうだったので安心した。
 ……むしろ一つも警戒されてない事が悲しかった。彼女の中で僕は時間が止まっているんじゃないか?

 どぎまぎしているのは、僕だけなんだろうか。尾花さんは僕より年上だし、色んな経験もあるんだろうけど。
 ああ、考えるのも嫌だ。

 なのに僕は三年前の事を思い出してしまう。

 ――彼女は楽しそうに笑いながら喋っていた。
 僕より三つ年上の、生花店に勤める男性と並んで歩きながら。

「……すみませんでした」

 僕は尾花さんの方を見ずに謝った。

「仕事とは言えラブホテルに僕と入ったなんて、尾花さんの付き合っている方が知ったら不快ですよね」
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