探偵さんの、宝物
 喉がごくりと動いたのが見えた。
 深い茶色の目の中いっぱいに私の姿が映っている。
 彼はゆっくりと口を開いた。

「今度……」

 楓堂さんが何か言おうとした時、玄関のチャイムが鳴った。

「……出てきます」
 その音で張り詰めた空気の膜が弾けて、日常が流れ込んできた。
 彼は速やかに体を起こし来客対応に向かった。私も慌ててそれに続く。

 一瞬、今まで見たことのないような、ぶすっとした顔をした気がする。今にも舌打ちしそうだったような。

 さっき、何を言おうとしていたんだろう。
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