探偵さんの、宝物
「申し訳ありません。
 弊社ではペット探しの依頼は基本的にお受けしておりません」

 私がお盆にお茶を載せて応接室に行くと、楓堂さんが恭しく頭を下げていた。

「そこを何とか。私だけじゃあ、とても探せません」

 向かいのソファに座る白髪のお婆さんも、負けずにへこへこと頭を下げている。

 楓堂さんが困っているお婆さんの依頼を断るなんて、どういう事だろう。

「ペット探しには動物の種類それぞれの専門的知識が必要です。
 私共は専門業者ではありませんので、できるのは周辺を目視や聞き込みで調査することと、ポスターを作成して貼ることです。
 それでも料金を頂くことになってしまいます」

 儲ける為に何でも受けるってわけじゃないんだな。少し見直した。
 確かに、ペットを探すだけで探偵の高額な料金をお婆さんから取るのは酷な気がする。
 楓堂さんはお茶を置いたあとで突っ立ったままの私に手招きして、隣に座らせた。

「その代わり、依頼という形ではなく、我々がその他の調査中に見掛けた場合にご連絡致します。料金は頂きません。
 その子の写真はお持ちですか?」

 私は心の中で拍手を送った。
 つまり、ボランティアでペット探しするってことだ。
 その心意気に胸が熱くなる。

 経営的には駄目かも知れないけど、尊敬出来る所長だと思った。

「ああ、本当ですか。ありがとうございます……」
 お婆さんは楓堂さんに向かって手を擦り合わせた後、ちりめんのバッグから数枚の写真を取り出した。

「あ」 
 私は写真を見てはっとした。
 真っ白な毛に緑の目の、綺麗な猫だった。顔が小さくて可愛いし、きっと女の子だ。

 ――この子、見たことある。今朝の夢の中で。
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