探偵さんの、宝物
 彼女に案内されるまま歩いた。
 裏路地は静かで、平屋の民家や古本屋、小さな雑貨店、食堂等が並んでいる。人影もまばらだ。

「ふふ、楓堂さんさんなら、ついてきてくれると思ってました。
 あなたも大概、良い意味でお節介な優しい人ですよ」

 ああ、尾花さんを勧誘するときにそんなことを言った気がするな。

「僕、お節介なんて言いましたっけ」
 確か『困っている人を放って置けない』だった筈だ。
「あ、違いましたかね」
 隣を歩く彼女は「ごめんなさい」と言いながらくすくすと笑った。 

 どんよりと曇って肌寒い日も、どこか楽しげな尾花さんと歩けるなら好天で好日だと知った。



「私、楓堂さんが無償で猫探しを手伝うと仰ったとき、すごく嬉しかったんです」 

 彼女は僕を見上げて、優しい目をして言った。

「ああ、あの時すばる君を助けて良かった、と思いました。
 こんなに立派な探偵さんになってくれて、それで誰かを助けているんだなって。
 私がしたことは、無駄じゃなかったんだなって」

 僕は足を止める。
 言葉がじんわりと、日向(ひなた)に当たるように胸を暖めていた。

「……そうです、全て貴女のお陰なんですよ」

 自分で口に出して、目頭が熱くなった。
 ずっと、一人で馬鹿みたいに、がむしゃらに進んできたから。
 憧れの人に、初恋の人に、自分を肯定してもらえたことが嬉しかった。

「全ては言いすぎでしょう!
 三パーセントくらいにしておいてください」
 同じように立ち止まった彼女は、からからと笑って言った。

 僕は彼女に曖昧に微笑んで見せた。
 「違います、全てなんですよ」と目で語りかけながら。
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