探偵さんの、宝物

 その日はそのまま退社した。

 ――今日もついてきてる。

 月はもう沈んでしまったけど、街の夜は明るく人も多い。
 五メートルほど後ろ、通行人の一人に帽子を被った男性がいる。
 この頃、探偵事務所から帰るときにはいつもついてくる。
 ……というか、一応調査員として自分も尾行をするようになってから気付いたので、もしかするともっと前からつけられていたのかも知れない。

 私が書店に寄っても中までついてきた。一つ後ろの棚に入ったのが見えた。
 声を掛けられたり何かされたりしたことはないので、気にせず本を選ぶことにする。

 ……いざと言う時はサイコキネシスで対抗しようと思っている。
 でも、この能力は自分の腕力と同じだけの力しか出せない。つまり腕力が二倍になるのと同じだ。それより相手が強かったら負ける。

 不意打ちを狙えればいけるかも知れないけど……。

 不審者を倒すイメージをしていたら、手に持っていた本が浮き上がり始めていたので慌てて両手で挟んで捕まえた。

 尾行技術の本、なんてものは見つからなかった。店員さんに聞くのも怪しまれそうなのでやめておく。代わりにカメラの指南書を探すことにした。

 あるポップ広告が目に留まる。
 暗闇に、青く白く光る星の粒が散りばめられた写真を背景に、黄色い文字が書かれている。

『都会の空でも見える星・秋冬編~オリオン座やすばるを見よう!~』

 ――すばる。楓堂さんの名前だ。



 結局私はカメラの本と、星の本を買って店を出た。
 その日も家に着くまで、帽子の男性は声を掛けるでもなくついてきた。
< 41 / 65 >

この作品をシェア

pagetop