探偵さんの、宝物

四節【映画デートと桜紅葉】

 正面のスクリーンは眩しく輝き、大迫力の音楽が座席を揺らす。
 暗い映画館の中、私と楓堂さんは肘掛けを挟んで隣同士に座っていた。



『用済みだ、消せ』
 葉巻をくわえたボスが言う。

 ボスの屋敷の中に作られた、宮殿風のマグマ風呂――トーキョーには灼熱の赤い温泉が湧いているらしい、入ると死ぬ――の上で、ロープに吊り下げられた女スパイは何も言わずに唇を噛み締める。

 スナイパーがロープを撃ち、彼女は真っ逆さまにマグマへ落ちてゆく。
 死を覚悟する女スパイ……。
 その時、どこからともなく声が聞こえた。

『助太刀致す』

 ステンドグラスが割れ、天井の天使像に鉤縄が掛かる。
 スタイリッシュに現れた忍者は、疾風迅雷の勢いで棒手裏剣を打ち雑魚を一掃。
 落下中の女スパイを攫うように抱き留めた。

『なんで、助けに来たのよ……。
 アタシは、あんたを裏切ったのよ!?』

『ならば償え、その身を以て。
 二度と離れることは許さん』

 ――ストーリーはクライマックスを迎える。
 主人公たちはお互いに引き寄せられるように、情熱的なキスをした。



 そのシーンを見てから、私は無意識に右隣の楓堂さんに目を向けた。
 すると、目が合った。

 私は笑って誤魔化した。
 鏡のように彼も笑った。
< 50 / 65 >

この作品をシェア

pagetop