探偵さんの、宝物
体格の大きい、ジャージを着たその男性には見覚えがあった。
――清島剛志。
私にとって最悪な四文字が頭に浮かんだ。
五年生の時、すばる君のトイカメラで遊んでいた男子たちのリーダー。
小学校から高校卒業まで、私に嫌がらせをし続けてきたグループの主犯格。
私が小学校低学年の時、不審者に声を掛けられている友達をサイコキネシスで助けたのがきっかけで、目をつけられた。
すれ違う時に、指をさして笑いながら悪口を言われた。会うたびに嫌な態度を取られた。私は彼を避けているのに、わざわざ近づいてきて暴言を吐かれた。変な噂も流された。そのせいで友達もろくにできずに孤立していた。
強がって、全て無視していたけど、内心辛かった。
花の専門学校への進学を決めたのも、絶対に清島君と一緒にならないだろう、というのが理由の一つだった。実際、進学後は毎日息を吸うのが楽になった。
近所だから偶然会うのも仕方ないかも知れないけど、高校卒業以来初めてのことだった。
彼を見ると、体が震えた。
怖い。怖い怖い怖い。
もう一生関わりたくない。
私は歩みを止め、楓堂さんのコートの袖を引いた。
「行きましょう」
「え、どうしました?」
その動きで、清島君もこちらに気付いたらしい。
細い目を見開いたあと、じっと私を睨み付けた。
ぎこちなく会釈して、楓堂さんの袖をもう一度引いた。
楓堂さんは私を見て、清島君を見て、それから頷いた。
私たちは来た道を引き返す。
楓堂さんは私を隠すように、背中に手を添えてくれた。