探偵さんの、宝物
四章【色づく心】

一節【十月三十一日】

「くそっ! なんでいつもいつも……」

 始業前の一人の家で、僕は昨日のことを思い出してがしがしと頭を掻いた。

 応接室の窓からは曇り空と、化粧砂利を敷いた小さな庭が見える。
 紅葉の木が一本植えてあるが、未だ葉は黄緑だ。



 ――昨日は清島氏に邪魔されて、尾花さんに告白することができなかった。
 そこに至るまでの流れは良好で、良い雰囲気だという手応えはあったのに。

 尾花さんは彼を怖がっている様子だったので、あの後事情を聞いた。
 ……聞いているだけで腹が立った。

 しかし、僕は彼が尾花さんのストーカーである可能性は低いと思っている。

 体格が明らかに違うし、年齢も違う。
 それに何より、中折れ帽の男の方が立ち居振舞いが落ち着いており尾行に慣れていた。

 それにしても、清島氏は平日なのに暇そうな様子だったな。僕らも他の人が休みを取る土日祝日の方が忙しい業種だが。



 ――昨日のことばかり考えていても仕方がない。
 尾花さんが来る前に精神状態を整えておこう。

 雲外に蒼天あり、今はそう思うしかない。
 僕は一度深く呼吸した。

 ――今日は、十月三十一日じゃないか。
 きっと少しくらい、良いことあるさ。

 玄関のインターホンが鳴る。
 尾花さんがいつもより二十分ほど早くやってきた。
 朝は鍵を開けておくのに、彼女はいつも勝手に入ってきてくれない。
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