探偵さんの、宝物
「楓堂さん、おはようございます」
尾花さんは昨日別れた時より明るい表情で挨拶した。
バッグの他に、赤い紙袋を持っている。
「おはようございます」
僕らは書斎に入り、彼女は荷物を置いた。
「昨日はありがとうございました。
……途中であんなことになって、すみませんでした」
曇った表情で言う彼女に、僕は出来うる限りの笑顔で応える。
「いえ、気にしないで下さい。
また出掛けてくだされば結構です」
「はい、また、ぜひ!」
尾花さんはふわりと微笑んだ。
「……ところで、楓堂さん。
今日は何の日か知ってますか?」
彼女は少し緊張した風に、後れ髪を耳に掛けながら聞いてきた。
「えーと、ハロウィンですかね?」
十月三十一日。
『トリックオアトリート』と呪文を唱えれば、相手がお菓子を持っていない場合、合法的に好きないたずらができる日――というのは冗談である。
内容や相手との関係性によってはきちんと逮捕されるだろう。
……でも、ちょっとだけなら許されないだろうか。
今日はハロウィンであると同時に、僕の誕生日なのだから。
――あの紙袋に淡い期待を抱いてしまうが、彼女が僕の誕生日を知っているはずはない。
僕の方は彼女が入社する際に書類を提出してもらったので知っているが。
「その通りです。……と、いうことで」
彼女は右手を差し出した。
「トリックオアトリート、です」
それを聞いて、僕はぽかんと口を開けた。
まさか彼女がそういうことを言ってくるとは。想定外だった。
「あ、すみません。
普通はこういうの、しないんですかね?
そういうテンションの職場だったので、つい習慣で……」
尾花さんは「みんなでお菓子の交換をしてたんです」と続ける。
僕は花屋の眼鏡の店長を思い出した。女の子に混じってお菓子の交換をしていても、何故か違和感がない。
「ええと、すみません。手持ちが無くて」
僕は苦笑して謝った。
家にあるのは、忙しい時用のバータイプの栄養食品くらいだった。
「じゃあ、いたずらですね?」
彼女は自分の唇に触れながら、怪しく微笑んだ。
「い、いたずら?」
僕の心臓が変な音を立て、声は裏返った。
――いたずらって、何をされるんだ?
尾花さんは昨日別れた時より明るい表情で挨拶した。
バッグの他に、赤い紙袋を持っている。
「おはようございます」
僕らは書斎に入り、彼女は荷物を置いた。
「昨日はありがとうございました。
……途中であんなことになって、すみませんでした」
曇った表情で言う彼女に、僕は出来うる限りの笑顔で応える。
「いえ、気にしないで下さい。
また出掛けてくだされば結構です」
「はい、また、ぜひ!」
尾花さんはふわりと微笑んだ。
「……ところで、楓堂さん。
今日は何の日か知ってますか?」
彼女は少し緊張した風に、後れ髪を耳に掛けながら聞いてきた。
「えーと、ハロウィンですかね?」
十月三十一日。
『トリックオアトリート』と呪文を唱えれば、相手がお菓子を持っていない場合、合法的に好きないたずらができる日――というのは冗談である。
内容や相手との関係性によってはきちんと逮捕されるだろう。
……でも、ちょっとだけなら許されないだろうか。
今日はハロウィンであると同時に、僕の誕生日なのだから。
――あの紙袋に淡い期待を抱いてしまうが、彼女が僕の誕生日を知っているはずはない。
僕の方は彼女が入社する際に書類を提出してもらったので知っているが。
「その通りです。……と、いうことで」
彼女は右手を差し出した。
「トリックオアトリート、です」
それを聞いて、僕はぽかんと口を開けた。
まさか彼女がそういうことを言ってくるとは。想定外だった。
「あ、すみません。
普通はこういうの、しないんですかね?
そういうテンションの職場だったので、つい習慣で……」
尾花さんは「みんなでお菓子の交換をしてたんです」と続ける。
僕は花屋の眼鏡の店長を思い出した。女の子に混じってお菓子の交換をしていても、何故か違和感がない。
「ええと、すみません。手持ちが無くて」
僕は苦笑して謝った。
家にあるのは、忙しい時用のバータイプの栄養食品くらいだった。
「じゃあ、いたずらですね?」
彼女は自分の唇に触れながら、怪しく微笑んだ。
「い、いたずら?」
僕の心臓が変な音を立て、声は裏返った。
――いたずらって、何をされるんだ?