探偵さんの、宝物
「さて、ここに美味しいお菓子の入った箱があります」

 尾花さんは赤い紙袋から茶色の小箱を取り出した。
 それをマジシャンのように僕に良く見せる。

「それでは楓堂さん、目を瞑ってください」
「ええと、僕、何かされるんですか?」

 自信ありげな様子の彼女に聞く。
 僕の目は彼女の一挙手一投足に釘付けになっている。

「大丈夫、痛いことはしませんよ」
 そう言われると、余計に背中がぞくぞくした。
 痛くなく、つまり優しく『何か』をしてくれる訳だ。
 
 僕は背徳的な期待を膨らませながら、目を瞑った。



「……はい、目を開けてください」

 特に、何かされた感じはなかった。
 拍子抜けした気持ちで目を開ける。

 お菓子の箱が、尾花さんの手の中からなくなっていた。

「推理で見つけてみてください。そしたら差し上げますよ」

 尾花さんはそう言って、いたずらっぽく笑った。
 僕は思い出した。
 子供の頃の彼女は、こんな風に小さないたずらをするのが好きだった。

「なるほど、受けて立ちましょう」

 僕は辺りを見回す。
 赤い紙袋は机に置いてあったが、空だった。
 椅子の上や本棚も見たが、無い。

「ふふふ」
 彼女は探す僕を見て、口元に手をあてて笑っていた。
 背中に隠していたりしないだろうか、と思い、僕は彼女自身に目を向けた。
 しかし両手は体の前側にあるので見えている。

 僕が観察していると、彼女は慌てたように手を振った。

「あ、服の中には隠してませんよ?」

 ――流石にそこは、探せない。
 いや、探して良いと言われたら喜んで探すけど。

「本当ですか?」
 僕はわざと真剣な顔をして、尾花さんに近付いた。
 本気で服の中に隠してるとは思っていない。ちょっとした仕返しだった。

「ほ、本当ですよ」
 頬を赤くして、縮こまる彼女は可愛い。


 ……こつん。


 僕の脳天に、何かが降ってきてぶつかった。
 落ちていくそれを反射的に手で受け止める。

 茶色いお菓子の箱だった。

「あ、ごめんなさい!」

 どうやら、サイコキネシスで僕の上に浮かばせていたらしい。
 道理で見つからないわけだ。

 ……それが落ちてきたと言うことは、彼女の集中力が切れたんだ。

 さっき、かなり動揺していたんだな。

「見つけました、ありがたく頂きます」

 重さから推測すると、中身はチョコレートだ。

「はい、どうぞ」
 彼女は嬉しそうに言った。



 ……しかし僕はここで話を終える気はなかった。

「なるほど、尾花さんはこういうことするんですね。
 それなら僕にも考えがありますよ?」
< 56 / 65 >

この作品をシェア

pagetop