探偵さんの、宝物
 小学三年生で初めて尾花さんに出会ってから、三年連続で夏休みに会って遊んだ。

 でも六年生になった年、祖父の具合が悪くなり遊びに行くことはなくなった。二年後、中学二年生になって祖父の葬式に出た時、想い出の場所だった河原の桜並木を見に行ったが誰もいなかった。
 ――探偵になってやる。いつか捜し出してやると思った。


 でもそれも高校生になると大それた夢に思えてきた。

 二年生の時、クラスメイトに告白されて付き合った。卒業前のある日、いつものように彼女は僕の部屋に来た。思い詰めたような顔をしていた。
「私達、別れよう。だって昴君、私のこと好きじゃないから」
 その言葉に殴られたような衝撃を受けた。
 僕は独りになって頭を抱えた、全て、気が付いてしまった。

「嘘だろ……小学生の時に出会った人のこと、本気で好きでいるなんて」

 あの人の事が気になって、忘れられていなかった。トイカメラで撮ったぼやけた写真も大切に保存していた。

 はっきりと覚えている。
 手を引いて歩いてくれた夏の日を、一緒に遊んだ日々を、お祖父ちゃんの葬式の帰りに見た空っぽの桜の木陰の淋しさを。


 「……探そう」

 後悔するくらいなら、どんなに難しくても。
 全て思い出した。子供の頃の夢も、まだ胸の底にくすぶっている。
 ――なりたいもの、あったじゃないか。

『私が探偵だから、かな』

 彼女が僕に振り向いて、いたずらっぽく笑った。
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