探偵さんの、宝物
 僕は大学在学中に探偵事務所の雑用のバイトをして、卒業後にそこに就職した。

 そして初恋の人捜しを始めた。昔撮った写真と名前、公園の位置から当たりをつけて地道に探す。途中から所長にばれて、手伝って下さることになった。
 お陰ですぐに見つかった。今から三年前の事だ。

 彼女には、恋人がいた。

 結局声は掛けられなかった。ショックが大きすぎた。
 夢に嘘は無いと思って、がむしゃらに仕事をした。
 三年間現場を学び、祖父の遺した屋敷を使って自分の事務所を立ち上げた。



 ――一昨日、三度目に会った時。
 想いが叶わなくてもいいから、ただもう一度話したいと思った。

 今もあの時の人と続いているんだろうか。
 しかしまだ彼女は『尾花』姓らしい。指輪も無かった。


『今日は押しかけてしまい、すみませんでした』
『いえ、届けて下さってありがとうございます』

 続けてもう一件送られてくる。

『あの、どこかでお会いしたことがありますか?
 楓堂さんのお名前、とても聞き覚えがあるんです』

 良かった。完全に忘れられてるわけじゃなかったんだ。
 子供の頃のことを話したら、思い出してくれるだろうか?

『その辺りのことをゆっくりお話ししたいので、今度お会いできませんか?』

『あ、やっぱりどこかでお会いしたことがあるんですね!
 思い出せなくてすみません……。
 すごく気になります。ぜひ、聞かせてください』

 ……これは、了承と取って良いのだろうか。

『では、ランチでも食べながら話しましょう。
 尾花さんの都合の良い日を教えて下さい』

 ここを逃してなるものかと、少々強引に話を付けた。
 それから、何が食べたいか等の話をして、週末出掛ける予定が決まった。

 スマホに齧りついていたため、湯冷めして足が冷たい。逆に頭はすっかりのぼせ上がっていた。


 僕は寝る前にもう一度、空を見上げた。

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