消えかけの灯火 ー 5日間の運命 ー



ガシャアァァァァァァァン!!!

耳を(つんざ)く程の、大きなガラスの割れる音が廊下中に……いや、学校中に響いた。
パリン、パリンと欠けたガラスの破片が地面に落ちていく音とともに、複数の女子生徒や男子生徒の悲鳴と驚いた拍子の叫び声が飛び交っていた。

「……な、なんだよ……?」

俺は頭が真っ白になり、目の前で起こっている事がまだ理解できないでいる。
そんな時、俺の目にはさっき引っ張られた反動で落としてしまったコンビニ袋が、大きなガラスの破片の下敷きになっている状態が映りこんだ。

さっき俺が居た場所……。

すると、俺は自分の右手が不自然に震えていることに違和感を覚えた。
パッと視線を右腕にやると、俺の腕を掴み強く引っ張った女子生徒自身が、身体を震わせていることに気がついた。

……そういえば。
この女がもし俺のことを引き止めていなかったら……俺はどうなっていた?

ガラスの破片が散らばっている中をよく見ると、野球ボールらしき物が転がっている。

もし俺があのまま廊下を進んでいれば、このボールに当たっていた?
それとも、ボールが突き破ったこのガラスの破片のどれかに刺さって、死んでいた……なんてこと……。
待てよ。……「死」?

俺は、ふと昨日のあの占いをやっていた婆さんとの会話を思い出した。

『お前さんはな、明日死ぬ運命にある。』
『それも、予想しない形でだ。お前さん一人の力では、その運命からは逃れられん。』

婆さんの言葉が脳裏をよぎる。
そして、その後の言葉も。

『だがな、ひとつだけ助かる方法がある。』
『お前さんを助けられる人間が、たった一人だけおる。』
『お前さんにとっての救世主じゃ。』

…………“救世主”。

もしかして、俺が助かったのは……この女のおかげ?
この女が俺の……“救世主”?まさか。
こんなのただの偶然だ。
この女は何か俺に用があって、たまたま俺の腕を引っ張った。ただそれだけだ。
俺が今日死ぬ予定だった出来事がコレだったなんて、そんな予言みたいなもの……あるわけない。
俺は婆さんの言葉なんて信じない。
“救世主”なんて信じない。
これはただの、本当にただの、偶然だったんだ。


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