消えかけの灯火 ー 5日間の運命 ー



俺の腕を掴み引っ張ってきた女子生徒にチラリと視線を向けた。
足元までガクガクと震えている女子生徒。

なんだよ、自分で意味不明なこと言っておいて、なんでこいつが怖がってんだよ……。

俺がそんなことを思っていた突如、パッと俺の腕から女子生徒は掴んでいた手を離した。
そして女子生徒は、こう口を開く。

「言ったでしょ……。あそこにいると危ないって。」

何故だかふいっと俺から目をそらすかのように、女子生徒は素っ気ない素振りを見せた。
ざわざわと廊下で騒ぎが起きている中、俺と女子生徒の空間だけはしんと静まり返っている。

「……とりあえず、教室に戻ろう。ここは危ないみたいだし。」

俺がそう女子生徒に促すと、女子生徒は何も言わず俺に背を向けてスタスタと先に教室へと戻っていった。
女子生徒は、俺と同じ教室に入っていく。

同じクラスだったのか。
てかなんなんだ、一体……。

俺も後に続いて教室に入ろうとした時。
出入り口を塞ぐようにさっきの女子生徒が立っていた。
またあのキッとした目付きで、俺を見上げている。
そして。

「お昼ご飯」
「は?」
「弁償する。」

見ている限り表情からは想像できない言葉が女子生徒から飛び出してきた。

ああ……昼メシ……。
ガラスの破片の下敷きになったやつ、気にしてたわけ。
メシの事なんか忘れてたわ。
それより今起きた出来事が俺的には非現実的すぎてそれどころじゃなかった。
色々と疑問が多すぎて。

「別に、んなことはどうでもいい。それより……」
「りん。」
「え?」
天野凛(あまのりん)。放課後、話したいことがある。」

突然の自己紹介と、俺が気にしていた事が明かされるかもしれないチャンスの誘いが来た。
別に、昨日の婆さんの言っていた事を信じているわけじゃない。
だけど、不自然な事が一瞬にして多く起きすぎて……。
俺の中では処理が追いつかないでいた。

「……わか、った。」
「放課後、駅前のカラオケ店。店の前で。じゃあ。」

淡々と予定を決め、伝え終わると天野凛と名乗った女は自分の席にスタスタと戻っていった。
天野凛の席は窓側の一番前だった。

なんで今まで、あの女の存在に気づかなかったんだろう。
俺の席からだと全然見える位置なんだけど。
あ、俺が人に興味を示さなかったからか。
まぁ見た事ある程度だったし、普通そんなもんだろ。
まぁいいや、放課後ね。

俺は心の中で「了解」と頷いた。
廊下では先生たちが騒ぎを聞いたらしく、片付けが行われていた。
誰も怪我人はおらず、誰が野球ボールを投げたかも不明らしい。
まぁやっちまったと思えば隠れるのも本能だろう。
それか故意でやったか……。
どちらにしろ、皆無事でよかったって話だ。
俺は奇跡的に助かったようなものだがな。
あの時、あの天野凛とかいうやつがいなければ。


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