悪魔になった天使
 その日はよく晴れていた。結は水をやりに山の頂上の花畑にやって来ていた。
 「この山はやはりユグドラシル様に気に入られておられるようね。」
 自然のなかの空気が透き通っているのは、世界樹の精霊神ユグドラシルの加護がこの山にあるからだ。しかし、この山でその姿を見たものは海風しかいなかった。
 どんな姿なのか想像することもできず、火鉢は目を瞑りながら感謝を空に向けてした。
 そのとき、風が強く吹きその風には闇の力がこめられていた。
 この風はと思ったとき、背後の森から気配を感じ取った
 「そこにいるのは黒霧!」
 それに答えるように、長い髪を背中までたらして森から出てきた。
 「お久しぶりです。火鉢結。海風は居ないのね。都合がいいこと。」
 黒霧、またの名を、ダーク璃珈。
 鮫風璃珈の闇の片割れ、殺すことしか戦い方を知らない戦闘強だ。
 「ここは貴方が来て良いところではないわ。立ち去りなさい。黒霧璃珈。」
 その言葉に黒霧はやれやれと両手を持ち上げて答える
 「貴方こそ、海風に着いていなくては行けないはずよ。ここに残っているのはダメなはず。なのに何で側に居ないのかしら?」
 挑発的な態度に火鉢は怒りを燃やした。
 「やはり、言葉による説得は無駄のようね。」
 火鉢は背中に差してある刀に手を着けて抜刀する。
 対する黒霧も腰に差した刀を抜刀した。
 「本当にやりあうつもり?あなたと私では相性が悪くてよ?」
 火鉢は目で訴えた。さっさと立ち去れと。
 しかし、その訴えは黒霧には通用しなかった。黒霧が真っ正面から突っ込んで来たからだ。
 刀と刀が競り合う。力は火鉢の方が一方的に押していた。
 「やはり、火鉢には刀での勝負には利がある。ここは魔術や忍術でやりあうのが一番ね。黒炎!」
 刀が黒い炎に変わったと思ったら、黒霧ごと黒い炎に包まれた。
 「まずい!この距離でそれは!」
 火鉢はすぐに後ろに飛ぶが花畑の一つの花がぐしゃりと踏みつぶれる。
 「漠炎!」
 黒い炎の塊がいきなり破裂した。その破裂した黒い火の粉が火鉢に襲いかかる。
 「ちっ!」
 舌打ちしてまた後ろに大きく跳び移る。
 火の粉はそこにあった花たちを燃やしたかと思うと跡形もなく花ごと消滅した。
 「やはり危険ね。あなたの黒炎は、当たれば死ぬどころか存在事態を消すその能力は、本当にヤバイ。けど、攻撃や私が貴方を切らない限りは食らわないけどね。」
 余裕がない火鉢は、すぐに対処をしようと周りの森に目を向ける。
 山の木々から次々と黒い蜂が集まって出てきた。
 「へぇ、火鉢家の最強の裏当主様のアンデッドクマンバチか、おもしろい。ぜひ見せてもらうわ。」
 黒い蜂が密集して黒霧を襲いかかる。一本の紐のように連なってまるで黒いビームのように黒霧の心臓を狙って襲うそれをまるでスローモーションを見ているかのようにゆっくりとよける。
 「遅すぎる。蜂にしては早い方だけど、私の敵じゃない。」
 笑いながら黒霧は火鉢を睨む。
 押しているのはどちらかというと黒霧だ。
 次に黒霧は刀の刃の先を地面に刺すとそのまま前に振る。
 「黒炎術激流草」
 花畑の花たちを燃やしながら、黒い炎が火鉢に襲いかかって来る。それを火鉢はダッシュで避けるが、黒炎は火鉢を追尾してくる。当たらない限り黒炎は襲ってくるそういう術だということに理解すると、火鉢は体を蜂の群衆に変えてバラバラに飛び散った。
 「火鉢家伝統術。いや、禁術。蜂化。お目にかかることができるなんて夢のようだわ。」
 そう言って黒霧は地面に停止した黒炎を見つめる。
 黒炎は火鉢結の本体を見つけるとまたその方向に動き出した。
 「見つけたわよ火鉢結。飛んでいても無駄なんだから」
 黒霧は背中に黒い霧状の翼をはやすと空へ飛ぶ
 そして刀を右手に持ち後ろへ助走を着けて一気に突っ込みながら最高速度で右腕を前に突きだした。
 「これで終わりよ!」
 しかしその刃は通らなかった。それどころか、キーンと言いつつも受け流される。
 「そんな、バカな。」
 黒霧はそのまま蜂の群衆に飲み込まれた。
 「黒炎」
 蜂の群衆にの中心でまた黒い大きな炎がたちあがる。
 「このまま本体ごと巻き込んであげる。」
 怒りに狂った声で黒霧は炎の強さをどんどん強くする。
 「そこまでだよ。ダークいえ、黒霧璃珈。」
 その声と共に、黒炎が弾けて消えた。黒霧は何が起こったのかわからないでいると、耳元でパチンと指を鳴らす音が聴こえた。
 正面にいたのは火鉢結と鮫風璃珈だった。
 「まさか、幻覚?私、負けたの?そんなことって。」
 黒霧は目を見開きながら涙を溢れさせ泣いていた。
 「黒霧,,,よく戦ったよ。死ななくてよかった。安心した。」
 鮫風璃珈は黒霧に近づいて胸元に抱き寄せた。
 「ごめんなさい、鮫風璃珈、私、私負けてしまいました。火鉢結に私は!」
 泣きながら鮫風璃珈を力強く握りしめた。
 「うん、悔しかったよね。辛いよね黒霧。ごめんね。」
 なんで鮫風璃珈が謝るの?黒霧にはわからなかったが、慰めようとしてくれていることが一番の幸せだった。
 「あれ、もう終わったの火鉢」
 火鉢結の隣に海風璃珈が現れた。
 「はい、主。少しだけ幻覚に嵌めたら術に掛かっているにも限らずその辺の空気を敵にして、刀を振り回しておりましたわ。」
 馬鹿にしている火鉢を海風は少し強めにチョップする。
 「痛いです主。何をするんですか。私悪いことしてませんよ。」
 火鉢が怒る。だが、海風は頭を左右に降った。
 「その言い方はないよ火鉢、ダークに謝って、」
 火鉢は黒霧の泣き顔を見て
 「嫌です。敗者にかける言葉などございません。それどころか、無礼を働いたのは今回は黒霧ですし、私が謝ることは一切ありません。」
 火鉢結の首元に刀の刃があたる。
 「火鉢結!さっさと謝って来てくれる?本体にこれ以上無礼な失言をするのなら、主である私が貴方を殺さないと行けないんだけど?」
 見ると鮫風璃珈がこちらを睨んでいた。
 怒っている、あからさまに怒っている。
 それどころか、腰の刀の鞘から血が溢れている。あれは、鮫風家の妖刀血鮫血を吸う刀血鮫だった。
 「わかりました主」
 鮫風璃珈の正面へと回り込む火鉢結
 膝を折り、地面にしゃがみこみ
 「この度の非礼な御言葉身を呈して謝罪申し上げます。大変申し訳ございませんでした。」
 「私は構わないよ。だけどね、黒霧を苦しませる言い方は許せないわ。今度いったら私が貴方を殺る。良いわね。」
 バシャッ!と鞘から血が勢いよく飛び散った。血鮫の鞘から大量の血が地面に血溜まりをしている。
 殺意だけが鮫風璃珈から感じ取れる。
 「本当に申し訳ありません。」
 深く頭を下げる火鉢結は、その目に涙を溢れさせていた。その顔は死に怯える女性の姿しか写らなかった。
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