冷徹社長の初恋
「絲。帰る前に言っておく。来週の研修の下見は、十分に気をつけるように」

「えっ?どういうことですか?」

「あの川原という男に、気を付けるように」

「川原先生?」

「あの男は、絲に気があるようだ」

剛さんは、突然何を言い出したのだろう。川原先生が、私に気があるだなんてはずない。

「そんなわけ、ないですよ」

「いや。見てればわかる。とにかく、十分に気をつけるように」

言い終えるや否や、剛さんが覆いかぶさってきて、首元に口付けた。ピリッとした痛みに、ビクッとする。たぶん、キスマークを付けたんだと思う。昨日から剛さんは、私を抱くたびにおびただしい数のキスマークを付けている。

「剛さん、そんなところに付けたら、隠せないです」

「絲は俺のだっていう証だからな。隠す必要はない」

いやいや、そういうわけにはいかない。
真っ赤に付いただろう印を見て、満足そうに頷くと、剛さんはベッドを降りた。

「そろそろ帰らなくてはな。絲、下見から帰る頃に、必ず連絡するように。迎えに行くからな」

「はい。会えるのを楽しみにしています」

玄関先で、剛さんは私を力強く抱きしめた。それから手を離すと、そっと口付けして帰っていった。


1人になってみると、なんだか部屋の中ががらんとして、寂しく感じた。


その夜、ベットに入ろうとした頃、剛さんからメールが来た。

『絲。一緒にいてくれてありがとう。おやすみ』

初めて来た恋人としてのメールが、すごく嬉しかった。


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