冷徹社長の初恋
「町田先生、お疲れさま」

「お疲れさまです。川原先生が説明してくださって、助かりました」

「ずいぶん熱心な社長さんだね。驚いたよ」

「ええ、私もです」

昼食を食べながら、さっきまでのことを思い出していた。

「それにしても……絲先生って、呼ばれてるんだね」

なんだか、探るようにして尋ねられた。そこ、気になるところだと、私も思っていた。
それより、一歩外に出たら〝絲〟って呼ばれてるなんてことは、明かせそうにもない。

「えっ、えぇ。なんでも、自分の部下に同じ町田さんがいらっしゃるようで、区別するためにって言われました。なんだか、気恥ずかしいんですけどね」

「へえ。そうなんだ。そんなふうに名前で呼ぶ人なんていなかったから、ちょっと気になって」

「そうですよね。みんなにそんなふうに呼ばれ出したら、なんだかくすぐったくなりそうです」

「僕も、絲先生って呼ぼうか?」

えっ……?
声はおちゃらけているのに、なんだかやけに真剣な目を向けられた。その真意を測りかねて、言葉に詰まってしまう。

「えっ、えっと……町田で……」

「ははは。そうだよね。急に呼び方を変えるなんて、何か変な勘違いをされそうだ」

「そ、そうですよ」

いたたまれない雰囲気はなくなり、空気が和らいでホッとした。
それからは、来週からの授業の打ち合わせなんかをしながら、食事を進めた。



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