きみこえ
ホワイトデー if Milk Caramel
「うーん・・・・・・どうしたものか・・・・・・」
陽太は腕を組み、悩みに悩んでいた。
「お兄ちゃん、どうかしたの?」
陽太に声を掛けたのは陽太の妹である日和だった。
「ああ、ホワイトデーのお返しって何がいいのか分からなくて・・・・・・」
日和はソファで雑誌を読んでいた手を止め、それを放り投げると、興味津々といった風に陽太に迫った。
「お、お、お、お兄ちゃんがホワイトデーとかどうしちゃったの!? いつもなら大量に貰いすぎてお返しなんて出来ないという条件でチョコ貰ってきてるじゃない! ま、まさかいつの間にか彼女が出来たの?」
「ち、違っ、そんなんじゃない。友達にだよ」
「ふーん、へー、友達ねえ・・・・・・」
日和は陽太に対して疑いと好奇の目を向けていた。
「な、なんだよ!」
「まあいいや、恋愛初心者なお兄ちゃんの為に日和が一肌脱いであげる!」
日和がそう言うと大きなホワイトボードを持ってきた。
「それ、どこから持ってきたんだよ・・・・・・」
「いいからいいから、お兄ちゃん、ホワイトデーのお返しって、お菓子によって意味があるのは知ってる?」
「いや、さっぱり」
「ふふーん、だと思ったよ。いい? まずオススメはキャンディね!」
日和は腰に手を当てながらホワイトボードに文字を書き得意気に言った。
「なんでキャンディ?」
「キャンディは甘い時間を長く楽しめるからね! 『あなたと甘い時間を楽しみたい』、『あなたが好きです』とか、『お付き合いしましょう』とかそう言う意味合いがあるみたいよ」
「へー、なるほどなって、そ、そんないきなり、そんなのあげられるか!」
今までホワイトデーに興味が無かった陽太は、お返しのお菓子に意味まであるとは夢にも思っていなかった。
知らなかっただけに、うっかり適当な物をあげて失敗するのだけは避けたいと陽太は思った。
「じゃあ、マドレーヌなんかは?」
「ま、まどれーぬ?」
陽太はあまり聞いた事の無いお菓子の名前が出てきてキョトンとした顔をした。
その様子を見て日和はホワイトボードに絵を描きながら説明した。
「貝殻の形をした薄いケーキみたいな物なんだけど、貝殻の形がぴったり二枚合わさるイメージから円満な関係を表すみたいね。『あなたともっと仲良くなりたい』って人にはいいと思うよ!」
「ほうほう・・・・・・」
陽太は日和の話を授業を受けるかの様にメモを取った。
「他にもあるのか?」
「あとはマカロンなんかもオススメだよ!『あなたは特別な人です』って意味があるみたい」
「うーん、それもちょっと渡すのが恥ずかしい様な・・・・・・」
「もう、お兄ちゃんったら相変わらずヘタレなんだから。そんなに押しが弱くてどうするのよ」
「押すも何も友達だって言ってるだろ!」
「えーー」
日和は面白くなさそうにブーたれた顔をした。
「じゃあじゃあクッキーとかでいいんじゃないの? サックリとしてて、ドライなイメージからズバリ『友達でいましょう』だってさ」
「なるほど、クッキーか・・・・・・」
「あと、何選ぶかはお兄ちゃんの勝手だけど、マシュマロとかグミはやめた方がいいからね。『あなたの事が嫌いです』って意味があるみたい」
「き、嫌い? お菓子ごときにそんな意味があるなんて恐ろしいな」
「まあ、お返しの意味を知ってる人がそこまで居るかどうかは知らないけど。とにかくお菓子選び、頑張ってね」
日和は何か含みのあるような顔で笑った。
陽太は後になって、あの時の日和の含み笑顔の意味が分かった気がした。
日曜日、陽太は一人でお菓子が沢山売っていそうなデパートに来ていた。
ホワイトデー特設会場を覗いてみるも、意外と多い女性陣を前にして陽太は非常に居たたまれなくなった。
「うう、冬真でも誘えば良かった」
陽太は恥ずかしさを忍んで特設会場を一周りしたが、ピンとくる物が無く、ふらふらと専門店の方へと歩きだした。
ふと、陽太の目にとまったのはキャラメルの専門店だった。
ポップでカラフルな印象のお店で軽く中を覗いてみると、スタンダードなキャラメルや、イチゴやメロン等のフルーツキャラメル、生キャラメル等が棚に並べられていた。
「キャラメルかぁ・・・・・・」
ふと陽太の目にとまったのは犬の形をしたキャラメルが個包装されて小瓶に沢山入っている物だった。
「これ・・・・・・似てるかも」
丸い形をしていて、小金色の犬で、普段のほのかの犬の様な人懐っこさがどことなく似ていると思った。
「あの、すみません、これラッピング出来ますか?」
陽太は店員のお姉さんにそう言ってその小瓶を指差した。
ホワイトデー当日、陽太は朝からそわそわしていた。
デパートから家に帰った後、日和から聞かされた事に戸惑っていたからだった。
「あ、お兄ちゃんお帰り、結局何を買ったの?」
「キャラメルにした」
「へえ~、キャラメルねぇ、お兄ちゃんの割にはなかなかいいの選んだね」
「なっ、なんだよ、何か深い意味でもあったのか?」
陽太は勢いで何となく買ってしまったが、後になって意味等考えていなかった事に焦りを覚えた。
「うん、言ってなかったけどキャラメルはねぇ・・・・・・ーー」
陽太は放課後、ほのかを屋上へ続く最上階の階段の踊場で待っているように伝えていた。
他の女子には何も渡していない為、皆には内緒でお返しを渡したかったからだった。
屋上へ向かう途中、サッカー部の部長に呼び止められ、次の試合の助っ人を頼まれたり、スケジュールを細かく打ち合わせした為待ち合わせ場所にたどり着くのが遅くなってしまった。
「ごめん、月島さん! 遅くなった」
陽太がほのかに声を掛けるも反応が無かった。
「あー、聞こえないんだったよな」
陽太は軽く肩を叩いたり、頬をつついたりもしたがやはり反応が無かった。
「寝てる・・・・・・?」
ほのかが腰掛けている階段の場所は後ろの窓から射し込む太陽の光が丁度当たり、日向ぼっこしている間に眠ってしまったのだと分かった。
ふと手元の紙袋を見て、陽太はそっとほのかに近づき、ほのかの後ろの段に腰掛けた。
陽太はほのかが起きてない事を確認すると、ほのかを後ろから抱き締めた。
自分よりも小さい肩で、柔らかくて、ほのかの香りがした。
「キャラメルってさ、一緒に居ると安心するって意味があるみたいだけど・・・・・・、俺、ムリだ・・・・・・、ドキドキし過ぎて落ち着かない」
聞こえないと分かっていながらほのかの耳元にそう囁いた。
陽太の顔は赤く色づき、心臓はほのかに伝わってしまうのではないかと思うくらい早く脈打っていた。
隣に置いたキャラメルを見て、ほのかにだけ用意した時点で、ほのかは陽太にとって特別な存在なのかもしれないと思った。
しばらくして、自分の腕の中でほのかが身じろぎするのを感じて陽太は慌ててほのかから離れた。
「うわ、わわわわっ」
【ごめんなさい、寝てたみたい】
「だ、大丈夫、俺も今来た所だから、はははは・・・・・・」
陽太は激しく動揺しながらもほのかが何も覚えていない様子な事にほっとしていた。
「それより、これ、今日ホワイトデーだからお返し」
足元にあった紙袋を掴みほのかに手渡すと、ほのかはスケッチブックに【ありがとう】と書いて見せた。
【開けてもいい?】
「あ、ああ、いいよ」
陽太はほのかがラッピングのリボンを解き、包を丁寧に開けていくのを見ながらも、ほのかがどう反応するかが気になった。
好みが分からなかっただけにもし苦手だったらどうしよう等と今更ながら考えた。
しかし、そんな考えは杞憂だった事がすぐに分かった。
ほのかは小瓶に入った犬のキャラメルを見て目を輝かせ、スケッチブックに【かわいい!】と書いて見せた。
ほのかは早速小瓶から一つキャラメルを取り出し、キャラメルを口に放り込んだ。
【美味しい!】
「そうか、喜んで貰えて良かったよ」
ほのかは小瓶からもう一つキャラメルを取り出すと陽太に差し出した。
「え、俺にくれるの?」
そう聞くとほのかはにこりと笑って頷いた。
「ありがとう」
陽太はほのかから貰ったキャラメルを口に入れた。
久しぶりに食べたキャラメルは、どこか懐かしくて、とても甘くて、少し苦くて、幸せな味がした。
「うーん・・・・・・どうしたものか・・・・・・」
陽太は腕を組み、悩みに悩んでいた。
「お兄ちゃん、どうかしたの?」
陽太に声を掛けたのは陽太の妹である日和だった。
「ああ、ホワイトデーのお返しって何がいいのか分からなくて・・・・・・」
日和はソファで雑誌を読んでいた手を止め、それを放り投げると、興味津々といった風に陽太に迫った。
「お、お、お、お兄ちゃんがホワイトデーとかどうしちゃったの!? いつもなら大量に貰いすぎてお返しなんて出来ないという条件でチョコ貰ってきてるじゃない! ま、まさかいつの間にか彼女が出来たの?」
「ち、違っ、そんなんじゃない。友達にだよ」
「ふーん、へー、友達ねえ・・・・・・」
日和は陽太に対して疑いと好奇の目を向けていた。
「な、なんだよ!」
「まあいいや、恋愛初心者なお兄ちゃんの為に日和が一肌脱いであげる!」
日和がそう言うと大きなホワイトボードを持ってきた。
「それ、どこから持ってきたんだよ・・・・・・」
「いいからいいから、お兄ちゃん、ホワイトデーのお返しって、お菓子によって意味があるのは知ってる?」
「いや、さっぱり」
「ふふーん、だと思ったよ。いい? まずオススメはキャンディね!」
日和は腰に手を当てながらホワイトボードに文字を書き得意気に言った。
「なんでキャンディ?」
「キャンディは甘い時間を長く楽しめるからね! 『あなたと甘い時間を楽しみたい』、『あなたが好きです』とか、『お付き合いしましょう』とかそう言う意味合いがあるみたいよ」
「へー、なるほどなって、そ、そんないきなり、そんなのあげられるか!」
今までホワイトデーに興味が無かった陽太は、お返しのお菓子に意味まであるとは夢にも思っていなかった。
知らなかっただけに、うっかり適当な物をあげて失敗するのだけは避けたいと陽太は思った。
「じゃあ、マドレーヌなんかは?」
「ま、まどれーぬ?」
陽太はあまり聞いた事の無いお菓子の名前が出てきてキョトンとした顔をした。
その様子を見て日和はホワイトボードに絵を描きながら説明した。
「貝殻の形をした薄いケーキみたいな物なんだけど、貝殻の形がぴったり二枚合わさるイメージから円満な関係を表すみたいね。『あなたともっと仲良くなりたい』って人にはいいと思うよ!」
「ほうほう・・・・・・」
陽太は日和の話を授業を受けるかの様にメモを取った。
「他にもあるのか?」
「あとはマカロンなんかもオススメだよ!『あなたは特別な人です』って意味があるみたい」
「うーん、それもちょっと渡すのが恥ずかしい様な・・・・・・」
「もう、お兄ちゃんったら相変わらずヘタレなんだから。そんなに押しが弱くてどうするのよ」
「押すも何も友達だって言ってるだろ!」
「えーー」
日和は面白くなさそうにブーたれた顔をした。
「じゃあじゃあクッキーとかでいいんじゃないの? サックリとしてて、ドライなイメージからズバリ『友達でいましょう』だってさ」
「なるほど、クッキーか・・・・・・」
「あと、何選ぶかはお兄ちゃんの勝手だけど、マシュマロとかグミはやめた方がいいからね。『あなたの事が嫌いです』って意味があるみたい」
「き、嫌い? お菓子ごときにそんな意味があるなんて恐ろしいな」
「まあ、お返しの意味を知ってる人がそこまで居るかどうかは知らないけど。とにかくお菓子選び、頑張ってね」
日和は何か含みのあるような顔で笑った。
陽太は後になって、あの時の日和の含み笑顔の意味が分かった気がした。
日曜日、陽太は一人でお菓子が沢山売っていそうなデパートに来ていた。
ホワイトデー特設会場を覗いてみるも、意外と多い女性陣を前にして陽太は非常に居たたまれなくなった。
「うう、冬真でも誘えば良かった」
陽太は恥ずかしさを忍んで特設会場を一周りしたが、ピンとくる物が無く、ふらふらと専門店の方へと歩きだした。
ふと、陽太の目にとまったのはキャラメルの専門店だった。
ポップでカラフルな印象のお店で軽く中を覗いてみると、スタンダードなキャラメルや、イチゴやメロン等のフルーツキャラメル、生キャラメル等が棚に並べられていた。
「キャラメルかぁ・・・・・・」
ふと陽太の目にとまったのは犬の形をしたキャラメルが個包装されて小瓶に沢山入っている物だった。
「これ・・・・・・似てるかも」
丸い形をしていて、小金色の犬で、普段のほのかの犬の様な人懐っこさがどことなく似ていると思った。
「あの、すみません、これラッピング出来ますか?」
陽太は店員のお姉さんにそう言ってその小瓶を指差した。
ホワイトデー当日、陽太は朝からそわそわしていた。
デパートから家に帰った後、日和から聞かされた事に戸惑っていたからだった。
「あ、お兄ちゃんお帰り、結局何を買ったの?」
「キャラメルにした」
「へえ~、キャラメルねぇ、お兄ちゃんの割にはなかなかいいの選んだね」
「なっ、なんだよ、何か深い意味でもあったのか?」
陽太は勢いで何となく買ってしまったが、後になって意味等考えていなかった事に焦りを覚えた。
「うん、言ってなかったけどキャラメルはねぇ・・・・・・ーー」
陽太は放課後、ほのかを屋上へ続く最上階の階段の踊場で待っているように伝えていた。
他の女子には何も渡していない為、皆には内緒でお返しを渡したかったからだった。
屋上へ向かう途中、サッカー部の部長に呼び止められ、次の試合の助っ人を頼まれたり、スケジュールを細かく打ち合わせした為待ち合わせ場所にたどり着くのが遅くなってしまった。
「ごめん、月島さん! 遅くなった」
陽太がほのかに声を掛けるも反応が無かった。
「あー、聞こえないんだったよな」
陽太は軽く肩を叩いたり、頬をつついたりもしたがやはり反応が無かった。
「寝てる・・・・・・?」
ほのかが腰掛けている階段の場所は後ろの窓から射し込む太陽の光が丁度当たり、日向ぼっこしている間に眠ってしまったのだと分かった。
ふと手元の紙袋を見て、陽太はそっとほのかに近づき、ほのかの後ろの段に腰掛けた。
陽太はほのかが起きてない事を確認すると、ほのかを後ろから抱き締めた。
自分よりも小さい肩で、柔らかくて、ほのかの香りがした。
「キャラメルってさ、一緒に居ると安心するって意味があるみたいだけど・・・・・・、俺、ムリだ・・・・・・、ドキドキし過ぎて落ち着かない」
聞こえないと分かっていながらほのかの耳元にそう囁いた。
陽太の顔は赤く色づき、心臓はほのかに伝わってしまうのではないかと思うくらい早く脈打っていた。
隣に置いたキャラメルを見て、ほのかにだけ用意した時点で、ほのかは陽太にとって特別な存在なのかもしれないと思った。
しばらくして、自分の腕の中でほのかが身じろぎするのを感じて陽太は慌ててほのかから離れた。
「うわ、わわわわっ」
【ごめんなさい、寝てたみたい】
「だ、大丈夫、俺も今来た所だから、はははは・・・・・・」
陽太は激しく動揺しながらもほのかが何も覚えていない様子な事にほっとしていた。
「それより、これ、今日ホワイトデーだからお返し」
足元にあった紙袋を掴みほのかに手渡すと、ほのかはスケッチブックに【ありがとう】と書いて見せた。
【開けてもいい?】
「あ、ああ、いいよ」
陽太はほのかがラッピングのリボンを解き、包を丁寧に開けていくのを見ながらも、ほのかがどう反応するかが気になった。
好みが分からなかっただけにもし苦手だったらどうしよう等と今更ながら考えた。
しかし、そんな考えは杞憂だった事がすぐに分かった。
ほのかは小瓶に入った犬のキャラメルを見て目を輝かせ、スケッチブックに【かわいい!】と書いて見せた。
ほのかは早速小瓶から一つキャラメルを取り出し、キャラメルを口に放り込んだ。
【美味しい!】
「そうか、喜んで貰えて良かったよ」
ほのかは小瓶からもう一つキャラメルを取り出すと陽太に差し出した。
「え、俺にくれるの?」
そう聞くとほのかはにこりと笑って頷いた。
「ありがとう」
陽太はほのかから貰ったキャラメルを口に入れた。
久しぶりに食べたキャラメルは、どこか懐かしくて、とても甘くて、少し苦くて、幸せな味がした。