きみこえ
準備模様と墨模様
文化祭の準備期間、クラスでは放課後にそれぞれ忙しそうに分担された作業をしていた。
ほのかは陽太と冬真と、そして文化祭実行委員の里穂の四人グループで食材調達と校内で配る広告作りを任されていた。
計算が得意な冬真は里穂と共に経費の管理等もこなしていた。
「じゃあ、各班の代表と経費の内訳について話し合ってくるから、その間に二人でビラのデザインについて考えておいてくれ」
冬真はほのかと陽太にそう言うと、里穂を引き連れてクラスの中心に集合した。
「ビラかぁ、俺絵とかそんなに得意じゃないんだよなー」
陽太はほのかと席を向かい合わせにくっ付けて冬真の言いつけの通り、広告について考えていた。
「取り敢えず、メニューの料金とかはまだ決まってないから、何の絵を描くか考えよう」
【分かった】
ほのかは何を描けば良いのかかなり考えた後、妖怪がテーマという事でまずは妖怪の絵を描くことを考えた。
自分のスケッチブックを広げるとマジックペンで思いのままに色んな妖怪を描いて、描いて、描きまくった。
「お、月島さん絵どんなの描いたの?」
陽太がほのかのスケッチブックを覗き込むと、そこにはとても広告には出来ない様なおどろおどろしい絵があった。
何の妖怪かも分からないタッチだったが、ある意味妖怪百鬼夜行とも言える絵だった。
「あー・・・・・・、月島さんが個性的な絵を描くって事忘れてたよ」
陽太は以前一緒に部活を探していた時の美術部でのほのかの独特な絵を思い出した。
「因みにこれは何の絵なの?」
陽太は端の方に描かれたトゲトゲした謎の生命体らしきものを指さした。
【カッパ】
ほのかはその謎の生命体の上にそう書いた。
「カッパ? ううーん、そう思えばそう見えなくも・・・・・・、じゃあこっちは?」
今度はその隣の丸ぼったいもじゃもじゃが描かれたものを指さした。
【猫又】
「猫又っ!? そ、そうなんだ、へー・・・・・・」
陽太は察した。
これはこれで怖いが、このままだと確実に客が寄り付かないだろうと!
【春野君はどんなの描いたの?】
ほのかは陽太の絵がどんなのかが気になって机の上のコピー用紙を覗いた。
「えっ、あっ! これはダメ」
陽太は恥ずかしそうに顔を赤くさせ、用紙を見せまいと手で隠した。
そんな様子にほのかは諦めず、僅かな手の隙間から絵を覗こうとしたり、右や左に後ろからと、色んな方向から見ようとするも陽太のガードが堅く見る事が出来なかった。
陽太がどうしても絵を見せてくれない事にほのかは膨れっ面をした。
「あああ、ごめんって! その、ちょっと見せるのが恥ずかしくってさ。俺絵下手で」
そんな言い訳をしていると冬真と里穂が班に戻って来た。
「どうした? 何を描いてたんだ?」
冬真は目敏く陽太が紙を隠しているのを見つけると、横から素早く紙を抜き取った。
「ちょっ、あああ!」
それはまだ荒い絵だったが、狐の耳と尻尾を生やし、巫女服を着たキャラクターだった。
「ふーん、お前にしては良く描けてるじゃないか」
「本当だ。可愛い! このデザインを元にキャラを描き起こしてみれば広告に使えそう」
里穂は冬真の持つ紙を覗き見てそう言った。
「ああ、小宮さん漫画研究部だったよな」
冬真はふとそんな事を思い出した。
「そうなの! ねえ、他にも描いてみてよ」
「う・・・・・・、いやいや、あとは本職の小宮さんに任せるよ。俺のはただの落書きだし」
「えー、そう? 結構上手いと思うけど・・・・・・」
里穂は残念そうにそう言った後、陽太にこっそりと耳打ちした。
「ねえ、そのキャラのモデル、月島さんでしょ」
「なっ! それは! き、気の所為だよ」
そう陽太は誤魔化したが、里穂は更に食い下がった。
「ええー、このゆるふわな感じの髪とか、ほわほわっとした表情とか分かるってー」
「・・・・・・・・・・・・もう、それでいいから、他の人には内緒ね」
陽太は里穂の追及に陥落し、人差し指を口元に当て、照れた顔でそう言った。
「ふふふ、りょーかい」
里穂はそう言ったものの、他の人が見ても分かる人には分かりそうだと思ったが、それは黙っておく事にした。
二人がそんな会話をしている間、ほのかは絵は諦め、ビラに書く文字について考えていた。
普通のマジックペンでは物足りなく思い、ほのかは筆ペンを取り出した。
文字なら部活で頑張っているのもあり、いくらでも文字を書けた。
普通の書き方で『もののけ茶屋』と書いてみた後、少し崩した書き方で書いてみたり、豪快な感じで書いてみたりと色んなパターンを試してみた。
書道部の翠から教わったのは、同じ文字でも書き方を変えるだけで雰囲気がガラリと変わるという事だった。
「あ、月島さんその文字いいじゃん。マジックで書くよりも和風な感じがする」
陽太がほのかのスケッチブックを目にすると感心した風に言った。
「そうだな。広告の屋号やメニューの文字は月島さんに任せよう」
ほのかはそんな大役を任せてもらえる事に嬉しくなり、笑って頷いた。
「問題は食材の仕入れだな。ここでいかに仕入れ値を下げ、利益を出すかだ。客が買いやすい単価と原価のバランスか・・・・・・ふっ、やりがいがありそうだな」
冬真はそんな事を呟き、電卓を叩いてはメモをした。
そんな事を細かく考えられるのは冬真しか居ないし、最適人だとほのか達三人はもれなく同じ事を考えていた。
「取り敢えず、まずは仕入先の調査が必要だな。早めに格安で仕入れられる所を探した方が良さそうだな」
冬真は鞄を手に取り早速教室を出ようとした。
「おもしろそー、俺も行く行く! 月島さんと小宮さんも行くでしょ?」
【行く!】
ほのかは美味しいお団子が見られるかもと思い、ワクワクとした表情で手早く荷物をまとめ鞄を持った。
「あー、私は文化祭実行委員の打ち合わせもあるからごめん、今日はここに残るね」
里穂は三人に申し訳なさそうな顔でそう言った。
「ああ、じゃあまた明日話し合おう」
「うん、バイバイ!」
ほのかは手を振って見送る里穂に手を振り返した。
ほのかはこの文化祭で色んな人と話す機会が増えればもっと友達を増やせるかもしれないとそう期待し、色んな事が楽しみになった。
廊下を歩いていると、ふとほのかは何かを思い付いた様に立ち止まった。
「あれ、月島さんどうかしたの?」
立ち尽くすほのかを心配し、陽太は声を掛けた。
【部室に筆を借りに行きたい】
ほのかは広告用の文字を書いていて、筆ペンだけでは細過ぎてもう何種類か太めの筆も使いたいと考えていた。
部室なら色んな太さの筆が用意してあったので、何本か借りられるだろうと思ったのだった。
「そうか、じゃあ少し寄って行くか」
そう言って冬真は昇降口へ向かう足を部室へと進路を変更した。
部室へ辿り着くとそこにはいつも通り作務衣を着た翠が居た。
「おや、皆さんお揃いで、もしかして、部活をしに来てくれたんですか?」
翠は目を輝かせて言った。
「いえ、今日は文化祭の準備で筆を借りに来ました」
「そうですか・・・・・・」
冬真がそう言うと翠は少し残念そうな顔をした。
「あ、文化祭の出し物で書道部として作品の展示もありますので、当日までに一日だけ部活の参加もお願いしますね。幽霊部員のお二人にもこんなお願いをするのは申し訳ないんですが、部として活動していると先生方にも知らしめる必要がありまして」
「はい、どこかで時間を作るようにします」
「そう言えば、皆さんのクラスでは何をやるんですか?」
翠は興味津々と言ったふうに尋ねた。
【もののけ茶屋です】
「茶屋ですか。それは面白そうですね。もののけですか・・・・・・」
「それで今日も食材の仕入先を探しに行くことになってるんです」
「ふむ・・・・・・、それならもしかしたら皆さんのお役に立てるかもしれません」
何かを考える素振りをした後、翠は優しい笑みを浮かべてそう言った。
文化祭の準備期間、クラスでは放課後にそれぞれ忙しそうに分担された作業をしていた。
ほのかは陽太と冬真と、そして文化祭実行委員の里穂の四人グループで食材調達と校内で配る広告作りを任されていた。
計算が得意な冬真は里穂と共に経費の管理等もこなしていた。
「じゃあ、各班の代表と経費の内訳について話し合ってくるから、その間に二人でビラのデザインについて考えておいてくれ」
冬真はほのかと陽太にそう言うと、里穂を引き連れてクラスの中心に集合した。
「ビラかぁ、俺絵とかそんなに得意じゃないんだよなー」
陽太はほのかと席を向かい合わせにくっ付けて冬真の言いつけの通り、広告について考えていた。
「取り敢えず、メニューの料金とかはまだ決まってないから、何の絵を描くか考えよう」
【分かった】
ほのかは何を描けば良いのかかなり考えた後、妖怪がテーマという事でまずは妖怪の絵を描くことを考えた。
自分のスケッチブックを広げるとマジックペンで思いのままに色んな妖怪を描いて、描いて、描きまくった。
「お、月島さん絵どんなの描いたの?」
陽太がほのかのスケッチブックを覗き込むと、そこにはとても広告には出来ない様なおどろおどろしい絵があった。
何の妖怪かも分からないタッチだったが、ある意味妖怪百鬼夜行とも言える絵だった。
「あー・・・・・・、月島さんが個性的な絵を描くって事忘れてたよ」
陽太は以前一緒に部活を探していた時の美術部でのほのかの独特な絵を思い出した。
「因みにこれは何の絵なの?」
陽太は端の方に描かれたトゲトゲした謎の生命体らしきものを指さした。
【カッパ】
ほのかはその謎の生命体の上にそう書いた。
「カッパ? ううーん、そう思えばそう見えなくも・・・・・・、じゃあこっちは?」
今度はその隣の丸ぼったいもじゃもじゃが描かれたものを指さした。
【猫又】
「猫又っ!? そ、そうなんだ、へー・・・・・・」
陽太は察した。
これはこれで怖いが、このままだと確実に客が寄り付かないだろうと!
【春野君はどんなの描いたの?】
ほのかは陽太の絵がどんなのかが気になって机の上のコピー用紙を覗いた。
「えっ、あっ! これはダメ」
陽太は恥ずかしそうに顔を赤くさせ、用紙を見せまいと手で隠した。
そんな様子にほのかは諦めず、僅かな手の隙間から絵を覗こうとしたり、右や左に後ろからと、色んな方向から見ようとするも陽太のガードが堅く見る事が出来なかった。
陽太がどうしても絵を見せてくれない事にほのかは膨れっ面をした。
「あああ、ごめんって! その、ちょっと見せるのが恥ずかしくってさ。俺絵下手で」
そんな言い訳をしていると冬真と里穂が班に戻って来た。
「どうした? 何を描いてたんだ?」
冬真は目敏く陽太が紙を隠しているのを見つけると、横から素早く紙を抜き取った。
「ちょっ、あああ!」
それはまだ荒い絵だったが、狐の耳と尻尾を生やし、巫女服を着たキャラクターだった。
「ふーん、お前にしては良く描けてるじゃないか」
「本当だ。可愛い! このデザインを元にキャラを描き起こしてみれば広告に使えそう」
里穂は冬真の持つ紙を覗き見てそう言った。
「ああ、小宮さん漫画研究部だったよな」
冬真はふとそんな事を思い出した。
「そうなの! ねえ、他にも描いてみてよ」
「う・・・・・・、いやいや、あとは本職の小宮さんに任せるよ。俺のはただの落書きだし」
「えー、そう? 結構上手いと思うけど・・・・・・」
里穂は残念そうにそう言った後、陽太にこっそりと耳打ちした。
「ねえ、そのキャラのモデル、月島さんでしょ」
「なっ! それは! き、気の所為だよ」
そう陽太は誤魔化したが、里穂は更に食い下がった。
「ええー、このゆるふわな感じの髪とか、ほわほわっとした表情とか分かるってー」
「・・・・・・・・・・・・もう、それでいいから、他の人には内緒ね」
陽太は里穂の追及に陥落し、人差し指を口元に当て、照れた顔でそう言った。
「ふふふ、りょーかい」
里穂はそう言ったものの、他の人が見ても分かる人には分かりそうだと思ったが、それは黙っておく事にした。
二人がそんな会話をしている間、ほのかは絵は諦め、ビラに書く文字について考えていた。
普通のマジックペンでは物足りなく思い、ほのかは筆ペンを取り出した。
文字なら部活で頑張っているのもあり、いくらでも文字を書けた。
普通の書き方で『もののけ茶屋』と書いてみた後、少し崩した書き方で書いてみたり、豪快な感じで書いてみたりと色んなパターンを試してみた。
書道部の翠から教わったのは、同じ文字でも書き方を変えるだけで雰囲気がガラリと変わるという事だった。
「あ、月島さんその文字いいじゃん。マジックで書くよりも和風な感じがする」
陽太がほのかのスケッチブックを目にすると感心した風に言った。
「そうだな。広告の屋号やメニューの文字は月島さんに任せよう」
ほのかはそんな大役を任せてもらえる事に嬉しくなり、笑って頷いた。
「問題は食材の仕入れだな。ここでいかに仕入れ値を下げ、利益を出すかだ。客が買いやすい単価と原価のバランスか・・・・・・ふっ、やりがいがありそうだな」
冬真はそんな事を呟き、電卓を叩いてはメモをした。
そんな事を細かく考えられるのは冬真しか居ないし、最適人だとほのか達三人はもれなく同じ事を考えていた。
「取り敢えず、まずは仕入先の調査が必要だな。早めに格安で仕入れられる所を探した方が良さそうだな」
冬真は鞄を手に取り早速教室を出ようとした。
「おもしろそー、俺も行く行く! 月島さんと小宮さんも行くでしょ?」
【行く!】
ほのかは美味しいお団子が見られるかもと思い、ワクワクとした表情で手早く荷物をまとめ鞄を持った。
「あー、私は文化祭実行委員の打ち合わせもあるからごめん、今日はここに残るね」
里穂は三人に申し訳なさそうな顔でそう言った。
「ああ、じゃあまた明日話し合おう」
「うん、バイバイ!」
ほのかは手を振って見送る里穂に手を振り返した。
ほのかはこの文化祭で色んな人と話す機会が増えればもっと友達を増やせるかもしれないとそう期待し、色んな事が楽しみになった。
廊下を歩いていると、ふとほのかは何かを思い付いた様に立ち止まった。
「あれ、月島さんどうかしたの?」
立ち尽くすほのかを心配し、陽太は声を掛けた。
【部室に筆を借りに行きたい】
ほのかは広告用の文字を書いていて、筆ペンだけでは細過ぎてもう何種類か太めの筆も使いたいと考えていた。
部室なら色んな太さの筆が用意してあったので、何本か借りられるだろうと思ったのだった。
「そうか、じゃあ少し寄って行くか」
そう言って冬真は昇降口へ向かう足を部室へと進路を変更した。
部室へ辿り着くとそこにはいつも通り作務衣を着た翠が居た。
「おや、皆さんお揃いで、もしかして、部活をしに来てくれたんですか?」
翠は目を輝かせて言った。
「いえ、今日は文化祭の準備で筆を借りに来ました」
「そうですか・・・・・・」
冬真がそう言うと翠は少し残念そうな顔をした。
「あ、文化祭の出し物で書道部として作品の展示もありますので、当日までに一日だけ部活の参加もお願いしますね。幽霊部員のお二人にもこんなお願いをするのは申し訳ないんですが、部として活動していると先生方にも知らしめる必要がありまして」
「はい、どこかで時間を作るようにします」
「そう言えば、皆さんのクラスでは何をやるんですか?」
翠は興味津々と言ったふうに尋ねた。
【もののけ茶屋です】
「茶屋ですか。それは面白そうですね。もののけですか・・・・・・」
「それで今日も食材の仕入先を探しに行くことになってるんです」
「ふむ・・・・・・、それならもしかしたら皆さんのお役に立てるかもしれません」
何かを考える素振りをした後、翠は優しい笑みを浮かべてそう言った。