きみこえ
エイプリルフール if 後編 ワンderful Dreamer
あれよあれよと陽太はほのかに抱きかかえられながらほのかの家に連れて来られた。
「ワウ・・・・・・クンクンクン(これが月島さんの家か・・・・・・月島さんのいい匂いがする)」
犬になったせいか、いつもより嗅覚が鋭くなっていて、ほのかの匂いがよく分かるようになっていた。
「ワワン!(って、俺は何を考えて!)」
陽太は自分の犬っぽさに呆れ、匂いを嗅ぐという変態っぽさに泣きたくなった。
【ここはペット不可だから大きな声でほえちゃダメだよ】
ほのかは犬である陽太にいつもの様にスケッチブックを見せた。
「クゥーン・・・・・・(それ、俺だから読めるけど、本当の犬だったら読めないと思うよ月島さん・・・・・・)」
そう小さく鳴いてツッコンでみるも、自分の言葉もほのかには分からない上に聞こえてすらいないので、お互い様か、と陽太はクスリと笑った。
ほのかは自分の部屋に入り、陽太は玄関で待っていた。
体は雨に濡れ、手足は泥だらけになっていて、このまま上がるわけにはいかないと判断したからだった。
暫くすると、ほのかは衣服を持って戻り、陽太を再び抱きかかえた。
「クウウ?(うわ、なんだ?)」
どんどんと家の奥の方に進み、扉を開けると脱衣所に辿りついた。
「ワワン!(ま、まさか!)」
陽太はこの先の扉に何があるのかを察した。
そして予想通り、ほのかは濡れた衣服をおもむろに脱ぎ始めた。
「キャンキャンキャンキャン!!(まずいまずいまずいまずい!!)」
陽太はなるべく見ないようにと部屋の隅に逃げて縮こまった。
だが、そんな抵抗もこの体では人の力には抵抗できる筈もなく、軽々とほのかには持ち上げられ浴室へと連れ込まれた。
ほのかの手から逃げようと手足をジタバタさせたが脱出は適わず、衣服を纏っていないほのかの肌や胸の感触に陽太は身を強ばらせた。
浴室の床に下ろされると陽太はほのかの手から逃げ回った。
だが、狭い個室で逃げ場はほぼ無く、陽太はもみくちゃにされ洗われた。
「ワオーーーン!(勘弁してくれーーー!)」
バスルームにはそんな犬の遠吠えが響いた。
お風呂から出ると陽太はほのかにドライヤーで毛を乾かしてもらっていた。
「クウウゥン・・・・・・(風呂場では大変だったけど、気持ち良い・・・・・・)」
ドラマで良くある恋人に髪を乾かしてもらうのはこんな感じなのだろうかと陽太は想像した。
これが人だったらなと思うと同時に、浴室での事を考えると、人に戻っても犬になっていた事は口が裂けても言えないと思った。
もしもずっと人に戻れなかったら、このままほのかに飼ってもらうのも良いかもしれないと考えた。
体が乾くとほのかは部屋を出ていった。
暫くしてもほのかが戻ってこないので陽太が様子を見に行くと、ほのかはキッチンで何かを悩んでいる様子だった。
ほのかが陽太を見つけると陽太の前に浅めの皿を置いた。
「クウ?(なんだ?)」
ほのかは冷蔵庫から牛乳パックを取り出すとそれを並々と皿に注いだ。
陽太は白い液体が注がれると思ったが、予想に反してピンク色をしていた。
鋭敏な嗅覚でそれが何かはすぐに分かった。
「ワン!(イチゴ牛乳かよ!)」
更に、ほのかはもう一つお皿を置くと棚を漁り、ある袋を取り出すと皿に茶色い物体をカラカラと音をたてながら入れた。
そして、さあお食べと言わんばかりにほのかは目を輝かせて陽太を見ていた。
陽太はドッグフードを食べる事に抵抗があったが、食べるところを期待されていると思うと逆らう事が出来なかった。
「ワワン!(ええい、なるようになれ!)」
一口その茶色い固形物を口に入れると、それはすぐにドッグフードではないと分かった。
「ワン! クゥンクゥン・・・・・・(ココア味のシリアルか! いや形は似てるけど・・・・・・)」
よくよく思えばペットを飼ってもいないのに、ドッグフードがあるわけがないよなと陽太は納得した。
イチゴ牛乳とシリアルが別々の皿に並んでいるのを見て、どうせならシリアルにイチゴ牛乳をかけ、普通にスプーンで食べたいと思いながらも、陽太はなんとか犬の見よう見まねで食べた。
ほのかになら飼われてもいいかと思っていたが、陽太は犬として食生活が大丈夫なのか少し心配になった。
結局メルリーナの助けもないまま夜を迎えた。
「クゥーン・・・・・・(このまま朝になっても戻らないままなのかな・・・・・・)」
陽太がほのかの方を見ると、ほのかは机に何やらファイルの様な物を開き眺めているところだった。
「ワンワン?(スクラップブック?)」
良く目を凝らすとそれは今まで陽太や冬真が授業中等にほのかに渡していたメモだと気が付いた。
「クーンクゥンクンクン・・・・・・(月島さん、あんなに大事そうにメモ取っておいてたんだな・・・・・・)」
ほのかのそんな様子を陽太は愛おしく感じた。
今までのやりとりを思い出すと毎日が楽しかったなと思った。
春休みが終わって、同じクラスにまたなれるだろうか、いや、それ以前に犬のままだとそれも出来なくなるなと陽太は寂しく思った。
その後、ほのかはベッドに横になり、床に寝そべっていた陽太を持ち上げた。
「ワオン?(うわ、なんだ?)」
ほのかは寝っ転がりながら陽太をまるでぬいぐるみでも持つ様に抱き上げ、陽太の顔を見て微笑んでいた。
一日ほのかの様子を見てきて、ずっとほのかは楽しそうにしていた。
一人暮らしをしていると聞いていた陽太は、自分が居る事で少しでも寂しさが紛らわせれたのなら、ちょっとは犬になった甲斐もあったかもしれないと笑った。
しかし、そこで事故が起きた。
ほのかは手を滑らせ陽太を落としてしまった。
「キャン!?(え!?)」
落下すると思ったのも束の間、煙が陽太の体を包み、一瞬何が起きたのか分からなくなり、体が急に重くなった様な感覚がした。
陽太は目を開けると、犬ではなく、人である自分の手が目に入った。
「う・・・・・・元に戻った?」
そして陽太は意識がはっきりとしてくると、口元を手で押え、頬を紅潮させ、驚いた顔をしているほのかと目が合った。
更には、そのほのかを不可抗力とはいえ押し倒している形になっている事に気が付いた。
「つ、月島さん! あの、これは違くて!」
陽太は狼狽えた。
どう説明しようかと考えながらも、それよりも早くどかなければと思い飛び退くと、勢い余ってベッドから転落した。
「いってーーー」
頭を押さえながら体を起こすと、そこはほのかの部屋ではなく、慣れ親しんだ自分の部屋だった。
「え? あれ?」
混乱する頭で立ち上がるとベッドは乱れ、自分が転落したのと同時に布団も転げ落ち、時計のカレンダーを見ると四月一日になっていた。
「なんだ、夢・・・・・・だったのか」
陽太はそこでやっと状況が理解出来た。
思えばあんな非現実的な事、起こるわけがないと今更ながら気が付いた。
全ては夢だった。
何もなかったのだと思う事にした。
ただ一つ、胸の奥底から熱くなる様な何かを残して。
「柔らかかったな・・・・・・」
陽太はまだ確かに感触の残る唇を指でなぞり、顔を赤らめながらそう呟いた。
「ねえ、メルリーナ、折角夢オチになるようにしたのに、結局彼が自力で魔法を解いたのなら、僕達余計な事をしてしまったのではないですか?」
家の屋根の上で、遠くから陽太の部屋を双眼鏡で覗きながら冒険家の様なコスプレをした黒髪の少年が言った。
少年は普段こんな格好はしていないが、メルリーナの格好に合わせて用意した物だった。
「そ、そんなあ! あれだけ目当ての夢具が出るまでチキチキ悪夢マラソンまでしたと言うのになのです!」
夢具、それは悪夢と引き換えに不思議な奇跡をもたらす夢界に伝わる道具だった。
ただ、その効果はランダムであり、悪夢の質が良い程レア度の高い夢具が出るという物であり、メルリーナは少年に泣きつき何十回と悪夢を見る羽目になった。
「まあ、元に戻ったのなら良しとするのです。さ、今度こそ春野 陽太さんに写真どーりにワンちゃんの格好をしてもらうのです!」
メルリーナは性懲りも無くあの写真を片手に意気込んだ。
「あ、それまだ諦めてなかったんですね・・・・・・」
「勿の論なのです!」
また同じ失敗をしないと良いけれど、と少年は思いつつ春の麗らかな日差しの中を駆けていくメルリーナを見送った。
あれよあれよと陽太はほのかに抱きかかえられながらほのかの家に連れて来られた。
「ワウ・・・・・・クンクンクン(これが月島さんの家か・・・・・・月島さんのいい匂いがする)」
犬になったせいか、いつもより嗅覚が鋭くなっていて、ほのかの匂いがよく分かるようになっていた。
「ワワン!(って、俺は何を考えて!)」
陽太は自分の犬っぽさに呆れ、匂いを嗅ぐという変態っぽさに泣きたくなった。
【ここはペット不可だから大きな声でほえちゃダメだよ】
ほのかは犬である陽太にいつもの様にスケッチブックを見せた。
「クゥーン・・・・・・(それ、俺だから読めるけど、本当の犬だったら読めないと思うよ月島さん・・・・・・)」
そう小さく鳴いてツッコンでみるも、自分の言葉もほのかには分からない上に聞こえてすらいないので、お互い様か、と陽太はクスリと笑った。
ほのかは自分の部屋に入り、陽太は玄関で待っていた。
体は雨に濡れ、手足は泥だらけになっていて、このまま上がるわけにはいかないと判断したからだった。
暫くすると、ほのかは衣服を持って戻り、陽太を再び抱きかかえた。
「クウウ?(うわ、なんだ?)」
どんどんと家の奥の方に進み、扉を開けると脱衣所に辿りついた。
「ワワン!(ま、まさか!)」
陽太はこの先の扉に何があるのかを察した。
そして予想通り、ほのかは濡れた衣服をおもむろに脱ぎ始めた。
「キャンキャンキャンキャン!!(まずいまずいまずいまずい!!)」
陽太はなるべく見ないようにと部屋の隅に逃げて縮こまった。
だが、そんな抵抗もこの体では人の力には抵抗できる筈もなく、軽々とほのかには持ち上げられ浴室へと連れ込まれた。
ほのかの手から逃げようと手足をジタバタさせたが脱出は適わず、衣服を纏っていないほのかの肌や胸の感触に陽太は身を強ばらせた。
浴室の床に下ろされると陽太はほのかの手から逃げ回った。
だが、狭い個室で逃げ場はほぼ無く、陽太はもみくちゃにされ洗われた。
「ワオーーーン!(勘弁してくれーーー!)」
バスルームにはそんな犬の遠吠えが響いた。
お風呂から出ると陽太はほのかにドライヤーで毛を乾かしてもらっていた。
「クウウゥン・・・・・・(風呂場では大変だったけど、気持ち良い・・・・・・)」
ドラマで良くある恋人に髪を乾かしてもらうのはこんな感じなのだろうかと陽太は想像した。
これが人だったらなと思うと同時に、浴室での事を考えると、人に戻っても犬になっていた事は口が裂けても言えないと思った。
もしもずっと人に戻れなかったら、このままほのかに飼ってもらうのも良いかもしれないと考えた。
体が乾くとほのかは部屋を出ていった。
暫くしてもほのかが戻ってこないので陽太が様子を見に行くと、ほのかはキッチンで何かを悩んでいる様子だった。
ほのかが陽太を見つけると陽太の前に浅めの皿を置いた。
「クウ?(なんだ?)」
ほのかは冷蔵庫から牛乳パックを取り出すとそれを並々と皿に注いだ。
陽太は白い液体が注がれると思ったが、予想に反してピンク色をしていた。
鋭敏な嗅覚でそれが何かはすぐに分かった。
「ワン!(イチゴ牛乳かよ!)」
更に、ほのかはもう一つお皿を置くと棚を漁り、ある袋を取り出すと皿に茶色い物体をカラカラと音をたてながら入れた。
そして、さあお食べと言わんばかりにほのかは目を輝かせて陽太を見ていた。
陽太はドッグフードを食べる事に抵抗があったが、食べるところを期待されていると思うと逆らう事が出来なかった。
「ワワン!(ええい、なるようになれ!)」
一口その茶色い固形物を口に入れると、それはすぐにドッグフードではないと分かった。
「ワン! クゥンクゥン・・・・・・(ココア味のシリアルか! いや形は似てるけど・・・・・・)」
よくよく思えばペットを飼ってもいないのに、ドッグフードがあるわけがないよなと陽太は納得した。
イチゴ牛乳とシリアルが別々の皿に並んでいるのを見て、どうせならシリアルにイチゴ牛乳をかけ、普通にスプーンで食べたいと思いながらも、陽太はなんとか犬の見よう見まねで食べた。
ほのかになら飼われてもいいかと思っていたが、陽太は犬として食生活が大丈夫なのか少し心配になった。
結局メルリーナの助けもないまま夜を迎えた。
「クゥーン・・・・・・(このまま朝になっても戻らないままなのかな・・・・・・)」
陽太がほのかの方を見ると、ほのかは机に何やらファイルの様な物を開き眺めているところだった。
「ワンワン?(スクラップブック?)」
良く目を凝らすとそれは今まで陽太や冬真が授業中等にほのかに渡していたメモだと気が付いた。
「クーンクゥンクンクン・・・・・・(月島さん、あんなに大事そうにメモ取っておいてたんだな・・・・・・)」
ほのかのそんな様子を陽太は愛おしく感じた。
今までのやりとりを思い出すと毎日が楽しかったなと思った。
春休みが終わって、同じクラスにまたなれるだろうか、いや、それ以前に犬のままだとそれも出来なくなるなと陽太は寂しく思った。
その後、ほのかはベッドに横になり、床に寝そべっていた陽太を持ち上げた。
「ワオン?(うわ、なんだ?)」
ほのかは寝っ転がりながら陽太をまるでぬいぐるみでも持つ様に抱き上げ、陽太の顔を見て微笑んでいた。
一日ほのかの様子を見てきて、ずっとほのかは楽しそうにしていた。
一人暮らしをしていると聞いていた陽太は、自分が居る事で少しでも寂しさが紛らわせれたのなら、ちょっとは犬になった甲斐もあったかもしれないと笑った。
しかし、そこで事故が起きた。
ほのかは手を滑らせ陽太を落としてしまった。
「キャン!?(え!?)」
落下すると思ったのも束の間、煙が陽太の体を包み、一瞬何が起きたのか分からなくなり、体が急に重くなった様な感覚がした。
陽太は目を開けると、犬ではなく、人である自分の手が目に入った。
「う・・・・・・元に戻った?」
そして陽太は意識がはっきりとしてくると、口元を手で押え、頬を紅潮させ、驚いた顔をしているほのかと目が合った。
更には、そのほのかを不可抗力とはいえ押し倒している形になっている事に気が付いた。
「つ、月島さん! あの、これは違くて!」
陽太は狼狽えた。
どう説明しようかと考えながらも、それよりも早くどかなければと思い飛び退くと、勢い余ってベッドから転落した。
「いってーーー」
頭を押さえながら体を起こすと、そこはほのかの部屋ではなく、慣れ親しんだ自分の部屋だった。
「え? あれ?」
混乱する頭で立ち上がるとベッドは乱れ、自分が転落したのと同時に布団も転げ落ち、時計のカレンダーを見ると四月一日になっていた。
「なんだ、夢・・・・・・だったのか」
陽太はそこでやっと状況が理解出来た。
思えばあんな非現実的な事、起こるわけがないと今更ながら気が付いた。
全ては夢だった。
何もなかったのだと思う事にした。
ただ一つ、胸の奥底から熱くなる様な何かを残して。
「柔らかかったな・・・・・・」
陽太はまだ確かに感触の残る唇を指でなぞり、顔を赤らめながらそう呟いた。
「ねえ、メルリーナ、折角夢オチになるようにしたのに、結局彼が自力で魔法を解いたのなら、僕達余計な事をしてしまったのではないですか?」
家の屋根の上で、遠くから陽太の部屋を双眼鏡で覗きながら冒険家の様なコスプレをした黒髪の少年が言った。
少年は普段こんな格好はしていないが、メルリーナの格好に合わせて用意した物だった。
「そ、そんなあ! あれだけ目当ての夢具が出るまでチキチキ悪夢マラソンまでしたと言うのになのです!」
夢具、それは悪夢と引き換えに不思議な奇跡をもたらす夢界に伝わる道具だった。
ただ、その効果はランダムであり、悪夢の質が良い程レア度の高い夢具が出るという物であり、メルリーナは少年に泣きつき何十回と悪夢を見る羽目になった。
「まあ、元に戻ったのなら良しとするのです。さ、今度こそ春野 陽太さんに写真どーりにワンちゃんの格好をしてもらうのです!」
メルリーナは性懲りも無くあの写真を片手に意気込んだ。
「あ、それまだ諦めてなかったんですね・・・・・・」
「勿の論なのです!」
また同じ失敗をしないと良いけれど、と少年は思いつつ春の麗らかな日差しの中を駆けていくメルリーナを見送った。