きみこえ
若人よ賽を取れ!
一人鏡の迷路を彷徨うほのかは、冬真を探して歩き回った。
だが、鏡のせいで方向が上手く分からず、気が付くと出口に出てしまっていた。
一人でゴールしてしまう訳にもいかず、冬真を探しに再び中に戻ろうとした時、ほのかは後ろから腕を掴まれた。
もしかして、冬真だろうかと振り向くと、そこには全く知らない人が立っていた。
「あの! 突然すみません! その格好狐・・・・・・ですよね? 今『我儘な王様の巨大すごろくゲーム』というのに参加してるんですが、僕の止まったマスに『狐の何かを持ってくる』という命令が書いてあって、そうしないと次のマスに進めないんです! どうか僕についてきて欲しいんです。ダメですか?」
ほのかはマップに三年生の演し物で確かにすごろくゲームがあったのを思い出した。
ほのかは狐巫女の格好をしたままだった。
この姿ならゲームはクリア出来るのだろう。
一緒に行ってあげたいのは山々だったが、冬真を置いては行けないと思い、断ろうとした。
腕は掴まれていたのでスケッチブックが使えず、否定の意味を込めて首を縦に振った。
「わあ、ついてきてくれるんですね! ありがとうございます!」
しかし、その男性はそれを肯定の意味で受け止めてしまった。
慌てて否定しようとしたがスケッチブックも使えないほのかにはその術がなく、男は前を向き、そのままほのかを連れて歩き出してしまった。
一方、冬真はやや遅れて迷路の出口に出たが、その時にはほのかの姿は既になかった。
まだ中に居るかもしれないと思ったが、先に誰かに目撃していないか聞いてみる事にした。
「ちょっと聞きたいんだが、巫女服を着ていて狐の耳を着けた女の子を見なかったか?」
出口側の景品を渡す係をしていた生徒にそう尋ねた。
「巫女服・・・・・・ああ、そういえばさっき男の人とどこかに行くのが見えたかな」
「男の人!? どっちに行ったか分かるか?」
「あっちの方に行ったけど」
「ありがとう」
冬真は生徒が指さした方角に向かって走る前に、陽太に連絡をする事にした。
『もしもし、冬真? どうかしたのか?』
「悪い、鏡の迷路に行ったら月島さんとはぐれた」
『マジかよ! 次の休憩予定の人と時間代わってもらって早めに探しに行けないか皆に相談してみる。どこに行ったか手掛かりとかは?』
「男の人と一緒だったらしい、あと方角は東の方としか分からない」
『そうか・・・・・・いや、待てよ? そう言えばさっき月島さんからよく分からないメールが来てたんだった。もしかしたらお前の所にも送ってるんじゃないか?』
冬真はメールを開くよりも先に陽太に電話をした為メールには気が付かなかった。
「本当か? 何て書いてあった?」
『えーと、確か【狐をレンタルされた】って』
「狐をレンタル・・・・・・? どういう事なんだ?」
冬真はマップを広げて確認した。
狐の格好をしていて役に立つのは他のクラスだとお化け屋敷位だが、方角が真逆だった。
そんな時、廊下で女子生徒の声が聞こえてきた。
「イルカのストラップ借りられて良かったー」
「そうだね! 早くマスに戻らなきゃ!」
二人の女子生徒はそう言いながら東の方の階段を降りていった。
「マス?」
冬真は急いでもう一度マップを見渡した。
「もしかしたら、月島さんは第二体育館に居るかもしれない。東階段を降りて渡り廊下の先には第二体育館がある。そこでは王様ゲームを混ぜたすごろくをやっているらしい。俺の考えが正しければ月島さんはそのゲームの為に誰かに借りられた可能性がある」
『よし、第二体育館だな! すぐに向かうよ』
「ああ、俺もすぐに行ってみる」
電話を切ると、冬真はすぐに第二体育館に向かって走り出した。
その頃、ほのかは何故か巨大なサイコロを両手に持ち、すごろくのスタート地点に立っていた。
第二体育館に着くと男性には感謝され別れたが、その後あれよあれよとすごろくに参加させられてしまっていた。
早く冬真の所に戻らねばと思いつつも、係の生徒がほのかの一挙手一投足に注目し、断りにくい空気になっていた。
ほのかはここは最短でゴールするしかないと思い賽を投げた。
出目の数は幸先よく六だった。
しかし、ほのかは出目に肩を震わせた。
何故なら、そこのマス目に書いてあるのは『超難読漢字を読む。当てれば三マス進む、パスは振り出しに戻る』と書かれていたからだった。
ほのかは先程から三回連続でそのマス目に止まっていて、毎回読めずにパスしていた。
「はい、では今回の出題漢字はこちら! じゃん!」
そう言って係の生徒が見せたスケッチブックには【紐育】と書かれていた。
ほのかは勘で【ひもいく】と答えた。
意味はさっぱり分からない上にそのまんま読んだだけだった。
「残念不正解! さあ、読み方が分からなければパスも出来ますよー」
【パスで】
ほのかはあっさりとパスした。
どう考えても他の読み方が思いつかなかったからだ。
そして、ほのかはすごすごとスタート地点に戻るとまたサイコロを手にしていた。
この『我儘な王様の巨大すごろくゲーム』というのはかなり難易度が高く、途中で脱落する者も多かった。
だが、見事ゴール出来れば豪華な景品が貰えるのだという。
ほのかがこのゲームに参加したのは係の人に無理矢理参加させられたのもあったが、その豪華な景品という響に心がときめいたのもあった。
サイコロを両手に持ち、高く掲げるとほのかは誰かに腕を掴まれた。
「はぁ、はぁ、やっと見つけた!」
それは息を切らし、走ってきた様子の陽太だった。
そして、更に少し遅れて冬真もやってきた。
「やはりここだったか・・・・・・」
二人共酷く疲れ、顔には汗が滲んでいた。
そこでほのかは二人に心配を掛けさせてしまったと自覚した。
【心配かけてごめんなさい】
「いや、連絡くれたから何とか探せたよ。それよりここすごい人だなー、もしかして参加してるの?」
【成り行きで】
「ふーん、それって俺達も参加出来るのかな?」
「おい、このすごろくに参加するつもりか?」
冬真はほのかが借り出されたりする様な無理難題が出るこのゲームに難色を示した。
「えー、いいじゃん、なんか面白そうだし! すみませーん、三人でも参加出来ますか?」
「スタート地点からですし、グループ参加もオーケーですよー」
陽太が係の人に聞くとあっさりと参加が認められた。
「やった! じゃー早速サイコロを振ろう! せーの!」
陽太はほのかと一緒にサイコロを持ち投げた。
出目の数は三だった。
「えーと、なになに『動画のダンスを覚えて踊れたら五マス進む。パスは振り出しに戻る』だってさ」
「ふん、ダンスなら陽太、お前の出番だろう」
「おう! 任せとけ!」
「じゃあこちらお題のダンス動画になります。これを一回で覚えて下さい」
その動画は一分半程の短いものだったが、手も足も動きが激しく、テンポも速い、ほのかも食い入る様に画面を見ていたがまったく覚えられなかった。
「グループ参加の場合は一人でもクリア出来ればオッケーでーす」
「陽太、お前なら一発クリアだろ?」
「おー、あの位ならなんとかなるかな」
陽太は手足を伸ばして準備運動をすると余裕そうな笑みでそう言った。
「では音楽スタート!」
動画と同じ音楽が流れると、陽太はお手本と寸分違わぬ忠実な動きをしてみせた。
動き難そうな衣装にも関わらず、キレの良いダンスを披露した。
そのダンスは周りから注目を集め、終わった時には体育館中に拍手が響いた。
ほのかはその凄さに拍手をした。
もし、自分だったらまたクリア出来ずにパスしていたに違いなかった。
【お疲れ様! ダンスすごかった!】
「お疲れ、あれを一回で覚えられるなら数学の公式も一回で覚えて欲しいものだな、万年赤点の陽太君?」
「うう、労いの言葉が酷い、俺頑張ったのに! 前回のテストだって赤点じゃなかったし!」
「はいはい、それは俺のお陰な。それよりさっさとサイコロを振ってこんなの早く終わらせるぞ」
五マス進んだ後、冬真がサイコロを投げると次の出目は四だった。
「えーと、次はー『次の数学の問題を解ければ三マス進む、パスは振り出しに戻る』これ、パスは毎回振り出しかよ!」
「数学なら俺の出番みたいだな」
ほのかも数学ならば冬真に任せれば間違いないと思った。
「はい、じゃあこれが問題でーす」
そこに書かれていたのは、高校の教科書でも見た事のない様な記号の数々、そしてやたらと長く数字が書き連ねられていた。
「はあ? 何だよこれ、こんなの高校生には無理な問題・・・・・・」
だろ、と続けようとしてそれを遮る様に冬真は口を開いた。
「X=1/6」
「早っ!」
冬真はものの数秒で解いてみせた。
「せ、正解です!」
こうして三人は快進撃を続け次々とマスを進んで行き、ついにゴール目前まで来た。
「はーい、次のお題は超サービス問題でーす『好きな人の名前を答えれば六マス進んでゴール』です!」
「え! す、好きな人って」
陽太はそのお題に狼狽えた。
「あ、因みにお父さんとかお母さんは無しです」
「陽太、ここはお前の出番だろう、やれ」
「はあ!? 何で俺なんだよ!」
陽太はほのかと目が合うと顔が急に燃えた様に赤くなった。
「む、無理だし・・・・・・、月島さんは?」
いきなり話を振られほのかはドキリとした。
そして、この手の話が苦手なほのかは顔を真っ赤にさせると頭を振った。
「だ、だよね、どうする冬真?」
「こうなったら仕方がないだろう。三人同時に言うぞ、せーの」
【パスで】
「パスで!」
「パスだ」
「あーあ、あそこまで行ったのに結局参加賞のポケットティッシュかよー」
三人はあれから時間の関係からゲームをギブアップした。
「まったく、時間の無駄だったな」
【でも楽しかった】
一人だったら振り出しに戻るをずっと繰り返していただろうとほのかは想像した。
ほのかが楽しそうに笑うと陽太も冬真もつられて微笑んだ。
「そうだな、少しは楽しめたかな。じゃあ俺は当番に戻る」
冬真がそう言うので、ほのかは頭の髪飾りを冬真に返した。
【頑張って!】
「ああ、じゃあ行ってくる」
「おー、頑張れよー」
二人で冬真を見送ると、陽太はにこりと笑ってほのかに手を差し出した。
「じゃあ次は俺が一緒に回るよ、次どこに行く?」
ほのかにはまだまだ行きたい所が沢山あった。
ほのかはマップの場所を指さした後、陽太の手を取った。
「よし、じゃあ行こうか」
一人鏡の迷路を彷徨うほのかは、冬真を探して歩き回った。
だが、鏡のせいで方向が上手く分からず、気が付くと出口に出てしまっていた。
一人でゴールしてしまう訳にもいかず、冬真を探しに再び中に戻ろうとした時、ほのかは後ろから腕を掴まれた。
もしかして、冬真だろうかと振り向くと、そこには全く知らない人が立っていた。
「あの! 突然すみません! その格好狐・・・・・・ですよね? 今『我儘な王様の巨大すごろくゲーム』というのに参加してるんですが、僕の止まったマスに『狐の何かを持ってくる』という命令が書いてあって、そうしないと次のマスに進めないんです! どうか僕についてきて欲しいんです。ダメですか?」
ほのかはマップに三年生の演し物で確かにすごろくゲームがあったのを思い出した。
ほのかは狐巫女の格好をしたままだった。
この姿ならゲームはクリア出来るのだろう。
一緒に行ってあげたいのは山々だったが、冬真を置いては行けないと思い、断ろうとした。
腕は掴まれていたのでスケッチブックが使えず、否定の意味を込めて首を縦に振った。
「わあ、ついてきてくれるんですね! ありがとうございます!」
しかし、その男性はそれを肯定の意味で受け止めてしまった。
慌てて否定しようとしたがスケッチブックも使えないほのかにはその術がなく、男は前を向き、そのままほのかを連れて歩き出してしまった。
一方、冬真はやや遅れて迷路の出口に出たが、その時にはほのかの姿は既になかった。
まだ中に居るかもしれないと思ったが、先に誰かに目撃していないか聞いてみる事にした。
「ちょっと聞きたいんだが、巫女服を着ていて狐の耳を着けた女の子を見なかったか?」
出口側の景品を渡す係をしていた生徒にそう尋ねた。
「巫女服・・・・・・ああ、そういえばさっき男の人とどこかに行くのが見えたかな」
「男の人!? どっちに行ったか分かるか?」
「あっちの方に行ったけど」
「ありがとう」
冬真は生徒が指さした方角に向かって走る前に、陽太に連絡をする事にした。
『もしもし、冬真? どうかしたのか?』
「悪い、鏡の迷路に行ったら月島さんとはぐれた」
『マジかよ! 次の休憩予定の人と時間代わってもらって早めに探しに行けないか皆に相談してみる。どこに行ったか手掛かりとかは?』
「男の人と一緒だったらしい、あと方角は東の方としか分からない」
『そうか・・・・・・いや、待てよ? そう言えばさっき月島さんからよく分からないメールが来てたんだった。もしかしたらお前の所にも送ってるんじゃないか?』
冬真はメールを開くよりも先に陽太に電話をした為メールには気が付かなかった。
「本当か? 何て書いてあった?」
『えーと、確か【狐をレンタルされた】って』
「狐をレンタル・・・・・・? どういう事なんだ?」
冬真はマップを広げて確認した。
狐の格好をしていて役に立つのは他のクラスだとお化け屋敷位だが、方角が真逆だった。
そんな時、廊下で女子生徒の声が聞こえてきた。
「イルカのストラップ借りられて良かったー」
「そうだね! 早くマスに戻らなきゃ!」
二人の女子生徒はそう言いながら東の方の階段を降りていった。
「マス?」
冬真は急いでもう一度マップを見渡した。
「もしかしたら、月島さんは第二体育館に居るかもしれない。東階段を降りて渡り廊下の先には第二体育館がある。そこでは王様ゲームを混ぜたすごろくをやっているらしい。俺の考えが正しければ月島さんはそのゲームの為に誰かに借りられた可能性がある」
『よし、第二体育館だな! すぐに向かうよ』
「ああ、俺もすぐに行ってみる」
電話を切ると、冬真はすぐに第二体育館に向かって走り出した。
その頃、ほのかは何故か巨大なサイコロを両手に持ち、すごろくのスタート地点に立っていた。
第二体育館に着くと男性には感謝され別れたが、その後あれよあれよとすごろくに参加させられてしまっていた。
早く冬真の所に戻らねばと思いつつも、係の生徒がほのかの一挙手一投足に注目し、断りにくい空気になっていた。
ほのかはここは最短でゴールするしかないと思い賽を投げた。
出目の数は幸先よく六だった。
しかし、ほのかは出目に肩を震わせた。
何故なら、そこのマス目に書いてあるのは『超難読漢字を読む。当てれば三マス進む、パスは振り出しに戻る』と書かれていたからだった。
ほのかは先程から三回連続でそのマス目に止まっていて、毎回読めずにパスしていた。
「はい、では今回の出題漢字はこちら! じゃん!」
そう言って係の生徒が見せたスケッチブックには【紐育】と書かれていた。
ほのかは勘で【ひもいく】と答えた。
意味はさっぱり分からない上にそのまんま読んだだけだった。
「残念不正解! さあ、読み方が分からなければパスも出来ますよー」
【パスで】
ほのかはあっさりとパスした。
どう考えても他の読み方が思いつかなかったからだ。
そして、ほのかはすごすごとスタート地点に戻るとまたサイコロを手にしていた。
この『我儘な王様の巨大すごろくゲーム』というのはかなり難易度が高く、途中で脱落する者も多かった。
だが、見事ゴール出来れば豪華な景品が貰えるのだという。
ほのかがこのゲームに参加したのは係の人に無理矢理参加させられたのもあったが、その豪華な景品という響に心がときめいたのもあった。
サイコロを両手に持ち、高く掲げるとほのかは誰かに腕を掴まれた。
「はぁ、はぁ、やっと見つけた!」
それは息を切らし、走ってきた様子の陽太だった。
そして、更に少し遅れて冬真もやってきた。
「やはりここだったか・・・・・・」
二人共酷く疲れ、顔には汗が滲んでいた。
そこでほのかは二人に心配を掛けさせてしまったと自覚した。
【心配かけてごめんなさい】
「いや、連絡くれたから何とか探せたよ。それよりここすごい人だなー、もしかして参加してるの?」
【成り行きで】
「ふーん、それって俺達も参加出来るのかな?」
「おい、このすごろくに参加するつもりか?」
冬真はほのかが借り出されたりする様な無理難題が出るこのゲームに難色を示した。
「えー、いいじゃん、なんか面白そうだし! すみませーん、三人でも参加出来ますか?」
「スタート地点からですし、グループ参加もオーケーですよー」
陽太が係の人に聞くとあっさりと参加が認められた。
「やった! じゃー早速サイコロを振ろう! せーの!」
陽太はほのかと一緒にサイコロを持ち投げた。
出目の数は三だった。
「えーと、なになに『動画のダンスを覚えて踊れたら五マス進む。パスは振り出しに戻る』だってさ」
「ふん、ダンスなら陽太、お前の出番だろう」
「おう! 任せとけ!」
「じゃあこちらお題のダンス動画になります。これを一回で覚えて下さい」
その動画は一分半程の短いものだったが、手も足も動きが激しく、テンポも速い、ほのかも食い入る様に画面を見ていたがまったく覚えられなかった。
「グループ参加の場合は一人でもクリア出来ればオッケーでーす」
「陽太、お前なら一発クリアだろ?」
「おー、あの位ならなんとかなるかな」
陽太は手足を伸ばして準備運動をすると余裕そうな笑みでそう言った。
「では音楽スタート!」
動画と同じ音楽が流れると、陽太はお手本と寸分違わぬ忠実な動きをしてみせた。
動き難そうな衣装にも関わらず、キレの良いダンスを披露した。
そのダンスは周りから注目を集め、終わった時には体育館中に拍手が響いた。
ほのかはその凄さに拍手をした。
もし、自分だったらまたクリア出来ずにパスしていたに違いなかった。
【お疲れ様! ダンスすごかった!】
「お疲れ、あれを一回で覚えられるなら数学の公式も一回で覚えて欲しいものだな、万年赤点の陽太君?」
「うう、労いの言葉が酷い、俺頑張ったのに! 前回のテストだって赤点じゃなかったし!」
「はいはい、それは俺のお陰な。それよりさっさとサイコロを振ってこんなの早く終わらせるぞ」
五マス進んだ後、冬真がサイコロを投げると次の出目は四だった。
「えーと、次はー『次の数学の問題を解ければ三マス進む、パスは振り出しに戻る』これ、パスは毎回振り出しかよ!」
「数学なら俺の出番みたいだな」
ほのかも数学ならば冬真に任せれば間違いないと思った。
「はい、じゃあこれが問題でーす」
そこに書かれていたのは、高校の教科書でも見た事のない様な記号の数々、そしてやたらと長く数字が書き連ねられていた。
「はあ? 何だよこれ、こんなの高校生には無理な問題・・・・・・」
だろ、と続けようとしてそれを遮る様に冬真は口を開いた。
「X=1/6」
「早っ!」
冬真はものの数秒で解いてみせた。
「せ、正解です!」
こうして三人は快進撃を続け次々とマスを進んで行き、ついにゴール目前まで来た。
「はーい、次のお題は超サービス問題でーす『好きな人の名前を答えれば六マス進んでゴール』です!」
「え! す、好きな人って」
陽太はそのお題に狼狽えた。
「あ、因みにお父さんとかお母さんは無しです」
「陽太、ここはお前の出番だろう、やれ」
「はあ!? 何で俺なんだよ!」
陽太はほのかと目が合うと顔が急に燃えた様に赤くなった。
「む、無理だし・・・・・・、月島さんは?」
いきなり話を振られほのかはドキリとした。
そして、この手の話が苦手なほのかは顔を真っ赤にさせると頭を振った。
「だ、だよね、どうする冬真?」
「こうなったら仕方がないだろう。三人同時に言うぞ、せーの」
【パスで】
「パスで!」
「パスだ」
「あーあ、あそこまで行ったのに結局参加賞のポケットティッシュかよー」
三人はあれから時間の関係からゲームをギブアップした。
「まったく、時間の無駄だったな」
【でも楽しかった】
一人だったら振り出しに戻るをずっと繰り返していただろうとほのかは想像した。
ほのかが楽しそうに笑うと陽太も冬真もつられて微笑んだ。
「そうだな、少しは楽しめたかな。じゃあ俺は当番に戻る」
冬真がそう言うので、ほのかは頭の髪飾りを冬真に返した。
【頑張って!】
「ああ、じゃあ行ってくる」
「おー、頑張れよー」
二人で冬真を見送ると、陽太はにこりと笑ってほのかに手を差し出した。
「じゃあ次は俺が一緒に回るよ、次どこに行く?」
ほのかにはまだまだ行きたい所が沢山あった。
ほのかはマップの場所を指さした後、陽太の手を取った。
「よし、じゃあ行こうか」