きみこえ
Trick or Treat ! if Ghost marshmallow
※ハロウィンストーリーの冬真さんバージョンです。
話をお忘れの方は去年のHalloween Monster if を読んで頂けるとより楽しめると思います。
ほのかは冬真からお菓子を貰おうと考えた。
しかし、いつの間にか冬真は教室から消えてしまっていた。
どこに行ってしまったのかと思いつつ、廊下をあてどなく歩いていると、足元から振動が感じられた。
地震だろうかと思っていると真横を白いシーツを被ったシーツおばけとその後ろを大勢の女子生徒が走り抜けた。
シーツおばけといえば冬真のコスプレだったが、ほのかは何故あんなにも女子に追いかけられているのかが気になった。
そこで、少しばかり足に自信があるほのかは興味本位から冬真を追いかけてみる事にした。
しばらく廊下を走っていると、すぐに女子達の背中に追い付いたが、そこに冬真の姿はなかった。
「あれー、こっちに行ったと思ったのにー」
「絶対どこかに居るはず! 探し出してあのシーツをひっぺがさなきゃ! 冬真君のコスプレってすんごいらしいじゃない!」
女子は色んな教室を覗き込んだり、他の階を探したりと躍起になっていた。
ほのかも何気なく探してみようと思い、教室の扉を開けた。
そこは美術の準備室で、描きかけの絵やイーゼル、シーツを被せたデッサン用の彫刻像等が沢山置いてあった。
パッと見で冬真の姿は見えなかったが、ほのかは美術品に興味を持ち、中の方も見てみたくなった。
歴代の生徒や美術部員が残した絵を眺めまわった後、シーツが被せられた彫刻像を見ようとシーツを捲ると、そこには石膏ではない人間の足が見えた。
「あー、美術準備室はまだ探してないよね?」
「こっちから足音しなかった? ちょっと覗いてみよ!」
女子生徒が準備室の扉を開いた瞬間、ほのかはシーツの中の人物に手を引っ張られた。
「あれ、人の気配がしたと思ったんだけどなぁ」
誰も居ない様子の部屋を女子生徒は訝しげな表情で見ていた。
ほのかは自分の身に何が起こったのかすぐには理解出来なかった。
突然、手を引っ張られたかと思うと、青い瞳で、顔には焦りの色を浮かべた少年に抱きすくめられていた。
ほのかは一瞬知らない人かと思ったが、見覚えのある顔の輪郭から冬真だと気が付いた。
そして、状況を整理すると、彫刻の像かと思って覗いたシーツの中には冬真が居て、今はそのシーツの中に二人で隠れているといった状態だった。
『悪いけど、絶対に動かないでくれ』
冬真はほのかに向かって声を出さずに口だけそう動かし、ほのかはそれに小さく頷いた。
「あ、ねえ! あのシーツ被せてるやつとか怪しくない?」
女子生徒の足音が近付き、冬真はほのかを抱き締める腕に力を入れた。
互いの吐息も体温も鼓動も分かる程の距離にほのかは顔から火が出そうな位に頬を赤くさせ、身を強ばらせた。
ほのかは少し目線を上げて冬真の顔を見ると、冬真も照れているのか、冷や汗を流しながらも顔をほんのりと赤らめていた。
「ここかなー、そーれっ!」
女子生徒がシーツを捲る瞬間、冬真はギュッと目を瞑った。
「あれ、ハズレかー」
捲られたのは鮭を生け捕りする熊を模した彫刻像だった。
間一髪、隣の彫刻像のシーツが捲られた事に冬真はホッとした。
だが、それも束の間の事で、次に冬真のシーツを捲られてしまったらおしまいだ。
「じゃあ隣かなー」
冬真達の隠れているシーツに手が掛けられ、二人の間に緊張が走った。
「ねえねえ、今美子ちゃんから連絡来たんだけど、陽太君が体育館でバスケしてるらしいよ、行ってみようよ」
「えー、見たい! 行く行く!」
女子生徒二人は慌ただしく走って教室を出ていった。
すっかり準備室が静まり返ると冬真はほのかを離し頭から被っていたシーツを取り払った。
「ようやく行ったみたいだな。いきなりあんな事して悪かったな。どうしてもこの格好を見られたくなくてな」
ほのかは冬真の言葉は頭にあまり入らず、ただただ冬真のコスプレ姿に見入っていた。
いつもしている眼鏡は外し、青のカラーコンタクトに、頭には短めの黒い角、陽太と似たゴシックパンク系の衣装ではあるが、目を見張るのはその衣装の露出の高さだった。
黒のジャケットの下にシャツ等着ていない為、よく引き締まった胸板が見え、穴のあいた黒のパンツルックかと思えば黒いベルトを多用し、その間から素肌が見えるという仕様、そして黒のブーツ、シルバーのペンダントやリング等のアクセサリーと、なかなか凝った衣装だった。
【すごくカッコイイ!】
「うわああ! 見るな! 見ないでくれ!」
冬真はほのかに姿を見られてしまった事にした気が付き、慌ててシーツを被った。
【隠しちゃうのもったいない】
「いや、こんな露出の高い格好見せられるか!」
冬真は手をバタバタとさせて抗議した。
だが、ほのかには冬真が何を言っているのか分からず首を傾げるだけだった。
「あー、このシーツ口元開いてないからな・・・・・・、仕方ない」
冬真は観念したように顔を赤くさせながらシーツを取った。
「こんな恥ずかしい格好したくもなかった。あの腹立たしい生徒会め・・・・・・」
こんなに格好いいのにどこに恥じる事があるのだろうか、とほのかは思った。
【なんのコスプレなの?】
ほのかは冬真が何か角のあるモンスターの格好だという事は分かったが、それが何なのかまでは分からなかった。
「それはっ! その・・・・・・イ・・・・・・・・・・・・スだ」
何かの名前を言ったと思ったが、冬真の口があまりにも早く動いた為、ほのかには肝心な名前がよく分からなかった。
【よく分からなかった。ワンモアチャンスプリーズ】
「う、だから・・・・・・、インキュバス・・・・・・だ」
【インキュバス! って何?】
「知らないなら知らないなら方がいい・・・・・・ってスマホで調べようとするな!」
冬真がほのかのスマホを持つ手を止めたので、ほのかは少しだけムッとした。
「あーもー、インキュバスってのは・・・・・・夢魔だよ」
【夢魔?】
「そうそう、その夢魔」
夢魔と言うモンスターをよく知らないほのかは妄想した。
夢に出てきて夢の世界を冒険したり、一緒に遊んだりでもするのだろうか?
だとしたら、とってもファンタジーで素敵だとほのかは考えた。
【楽しそう!】
「あー、うっとりとした顔して妄想してるとこ悪いけど、月島さんが想像してるようなモンスターじゃないからな? 一応悪魔の一種だしな・・・・・・」
そう言われてほのかは益々インキュバスがどんな悪魔なのか分からなくなり、頭に大量のクエスチョンマークを並べた。
「でも・・・・・・」
冬真はほのかに歩み寄りほのかの頬に優しく触れた。
ほのかは冬真の所作一つ一つにドキリとした。
「夢で月島さんに逢えるなら・・・・・・それも悪くないかもしれないな・・・・・・」
そう言う冬真の顔はとても妖艶で、その瞳を長く見詰めていれば心も奪われてしまいそうで、目を逸らしたくなる気持ちに反してその爛々と光る蒼い目からは何故か逃れる事が出来なかった。
それはまるで夢魔の魔法にでも掛かってしまったみたいだった。
「っと・・・・・・」
冬真の手に自分の頬の熱が伝わるんじゃないかと思った時、その手は離れた。
「なんか今凄い恥ずい事言った気がする・・・・・・。今のは忘れてくれ。俺はもう行くから・・・・・・」
恥ずかしそうに冬真は額に手をやると準備室を出ようとした。
その時、ほのかは行ってしまう冬真の手を引っ張り引き止めた。
「何? そう言えば俺に何か用だった?」
ほのかはポケットから黒猫の形をしたチョコレートを差し出した。
【トリック・オア・トリート!】
「ああ、それか、俺甘い物は・・・・・・」
【カカオ90%チョコで作ったよ】
最近流行りのハイカカオチョコ、それは健康に良く、かなり苦いと話題だった。
「ふっ、それ、もうほとんどカカオだろ」
冬真は軽く笑うとほのかからチョコレートを受け取った。
「じゃあこれ、俺から」
そう言って冬真はほのかに白いマシュマロが入った袋を渡した。
良く見るとシーツオバケの形をしたマシュマロで、こんな可愛いマシュマロどこで売っているのだろうかとほのかは少しだけ気になった。
【ありがとう!】
「それじゃあな」
冬真は再びシーツを被り、今度こそ準備室を出ていった。
その後、冬真が一分も経たずに女子生徒達に追いかけ回されたのは言うまでもない。
※ハロウィンストーリーの冬真さんバージョンです。
話をお忘れの方は去年のHalloween Monster if を読んで頂けるとより楽しめると思います。
ほのかは冬真からお菓子を貰おうと考えた。
しかし、いつの間にか冬真は教室から消えてしまっていた。
どこに行ってしまったのかと思いつつ、廊下をあてどなく歩いていると、足元から振動が感じられた。
地震だろうかと思っていると真横を白いシーツを被ったシーツおばけとその後ろを大勢の女子生徒が走り抜けた。
シーツおばけといえば冬真のコスプレだったが、ほのかは何故あんなにも女子に追いかけられているのかが気になった。
そこで、少しばかり足に自信があるほのかは興味本位から冬真を追いかけてみる事にした。
しばらく廊下を走っていると、すぐに女子達の背中に追い付いたが、そこに冬真の姿はなかった。
「あれー、こっちに行ったと思ったのにー」
「絶対どこかに居るはず! 探し出してあのシーツをひっぺがさなきゃ! 冬真君のコスプレってすんごいらしいじゃない!」
女子は色んな教室を覗き込んだり、他の階を探したりと躍起になっていた。
ほのかも何気なく探してみようと思い、教室の扉を開けた。
そこは美術の準備室で、描きかけの絵やイーゼル、シーツを被せたデッサン用の彫刻像等が沢山置いてあった。
パッと見で冬真の姿は見えなかったが、ほのかは美術品に興味を持ち、中の方も見てみたくなった。
歴代の生徒や美術部員が残した絵を眺めまわった後、シーツが被せられた彫刻像を見ようとシーツを捲ると、そこには石膏ではない人間の足が見えた。
「あー、美術準備室はまだ探してないよね?」
「こっちから足音しなかった? ちょっと覗いてみよ!」
女子生徒が準備室の扉を開いた瞬間、ほのかはシーツの中の人物に手を引っ張られた。
「あれ、人の気配がしたと思ったんだけどなぁ」
誰も居ない様子の部屋を女子生徒は訝しげな表情で見ていた。
ほのかは自分の身に何が起こったのかすぐには理解出来なかった。
突然、手を引っ張られたかと思うと、青い瞳で、顔には焦りの色を浮かべた少年に抱きすくめられていた。
ほのかは一瞬知らない人かと思ったが、見覚えのある顔の輪郭から冬真だと気が付いた。
そして、状況を整理すると、彫刻の像かと思って覗いたシーツの中には冬真が居て、今はそのシーツの中に二人で隠れているといった状態だった。
『悪いけど、絶対に動かないでくれ』
冬真はほのかに向かって声を出さずに口だけそう動かし、ほのかはそれに小さく頷いた。
「あ、ねえ! あのシーツ被せてるやつとか怪しくない?」
女子生徒の足音が近付き、冬真はほのかを抱き締める腕に力を入れた。
互いの吐息も体温も鼓動も分かる程の距離にほのかは顔から火が出そうな位に頬を赤くさせ、身を強ばらせた。
ほのかは少し目線を上げて冬真の顔を見ると、冬真も照れているのか、冷や汗を流しながらも顔をほんのりと赤らめていた。
「ここかなー、そーれっ!」
女子生徒がシーツを捲る瞬間、冬真はギュッと目を瞑った。
「あれ、ハズレかー」
捲られたのは鮭を生け捕りする熊を模した彫刻像だった。
間一髪、隣の彫刻像のシーツが捲られた事に冬真はホッとした。
だが、それも束の間の事で、次に冬真のシーツを捲られてしまったらおしまいだ。
「じゃあ隣かなー」
冬真達の隠れているシーツに手が掛けられ、二人の間に緊張が走った。
「ねえねえ、今美子ちゃんから連絡来たんだけど、陽太君が体育館でバスケしてるらしいよ、行ってみようよ」
「えー、見たい! 行く行く!」
女子生徒二人は慌ただしく走って教室を出ていった。
すっかり準備室が静まり返ると冬真はほのかを離し頭から被っていたシーツを取り払った。
「ようやく行ったみたいだな。いきなりあんな事して悪かったな。どうしてもこの格好を見られたくなくてな」
ほのかは冬真の言葉は頭にあまり入らず、ただただ冬真のコスプレ姿に見入っていた。
いつもしている眼鏡は外し、青のカラーコンタクトに、頭には短めの黒い角、陽太と似たゴシックパンク系の衣装ではあるが、目を見張るのはその衣装の露出の高さだった。
黒のジャケットの下にシャツ等着ていない為、よく引き締まった胸板が見え、穴のあいた黒のパンツルックかと思えば黒いベルトを多用し、その間から素肌が見えるという仕様、そして黒のブーツ、シルバーのペンダントやリング等のアクセサリーと、なかなか凝った衣装だった。
【すごくカッコイイ!】
「うわああ! 見るな! 見ないでくれ!」
冬真はほのかに姿を見られてしまった事にした気が付き、慌ててシーツを被った。
【隠しちゃうのもったいない】
「いや、こんな露出の高い格好見せられるか!」
冬真は手をバタバタとさせて抗議した。
だが、ほのかには冬真が何を言っているのか分からず首を傾げるだけだった。
「あー、このシーツ口元開いてないからな・・・・・・、仕方ない」
冬真は観念したように顔を赤くさせながらシーツを取った。
「こんな恥ずかしい格好したくもなかった。あの腹立たしい生徒会め・・・・・・」
こんなに格好いいのにどこに恥じる事があるのだろうか、とほのかは思った。
【なんのコスプレなの?】
ほのかは冬真が何か角のあるモンスターの格好だという事は分かったが、それが何なのかまでは分からなかった。
「それはっ! その・・・・・・イ・・・・・・・・・・・・スだ」
何かの名前を言ったと思ったが、冬真の口があまりにも早く動いた為、ほのかには肝心な名前がよく分からなかった。
【よく分からなかった。ワンモアチャンスプリーズ】
「う、だから・・・・・・、インキュバス・・・・・・だ」
【インキュバス! って何?】
「知らないなら知らないなら方がいい・・・・・・ってスマホで調べようとするな!」
冬真がほのかのスマホを持つ手を止めたので、ほのかは少しだけムッとした。
「あーもー、インキュバスってのは・・・・・・夢魔だよ」
【夢魔?】
「そうそう、その夢魔」
夢魔と言うモンスターをよく知らないほのかは妄想した。
夢に出てきて夢の世界を冒険したり、一緒に遊んだりでもするのだろうか?
だとしたら、とってもファンタジーで素敵だとほのかは考えた。
【楽しそう!】
「あー、うっとりとした顔して妄想してるとこ悪いけど、月島さんが想像してるようなモンスターじゃないからな? 一応悪魔の一種だしな・・・・・・」
そう言われてほのかは益々インキュバスがどんな悪魔なのか分からなくなり、頭に大量のクエスチョンマークを並べた。
「でも・・・・・・」
冬真はほのかに歩み寄りほのかの頬に優しく触れた。
ほのかは冬真の所作一つ一つにドキリとした。
「夢で月島さんに逢えるなら・・・・・・それも悪くないかもしれないな・・・・・・」
そう言う冬真の顔はとても妖艶で、その瞳を長く見詰めていれば心も奪われてしまいそうで、目を逸らしたくなる気持ちに反してその爛々と光る蒼い目からは何故か逃れる事が出来なかった。
それはまるで夢魔の魔法にでも掛かってしまったみたいだった。
「っと・・・・・・」
冬真の手に自分の頬の熱が伝わるんじゃないかと思った時、その手は離れた。
「なんか今凄い恥ずい事言った気がする・・・・・・。今のは忘れてくれ。俺はもう行くから・・・・・・」
恥ずかしそうに冬真は額に手をやると準備室を出ようとした。
その時、ほのかは行ってしまう冬真の手を引っ張り引き止めた。
「何? そう言えば俺に何か用だった?」
ほのかはポケットから黒猫の形をしたチョコレートを差し出した。
【トリック・オア・トリート!】
「ああ、それか、俺甘い物は・・・・・・」
【カカオ90%チョコで作ったよ】
最近流行りのハイカカオチョコ、それは健康に良く、かなり苦いと話題だった。
「ふっ、それ、もうほとんどカカオだろ」
冬真は軽く笑うとほのかからチョコレートを受け取った。
「じゃあこれ、俺から」
そう言って冬真はほのかに白いマシュマロが入った袋を渡した。
良く見るとシーツオバケの形をしたマシュマロで、こんな可愛いマシュマロどこで売っているのだろうかとほのかは少しだけ気になった。
【ありがとう!】
「それじゃあな」
冬真は再びシーツを被り、今度こそ準備室を出ていった。
その後、冬真が一分も経たずに女子生徒達に追いかけ回されたのは言うまでもない。