きみこえ
Love is ???
ほのかと陽太が和菓子屋に辿り着いた時、二人は以前来た時との変わり様に驚いていた。
店の前には十数人の列ができ、あのふざけた看板はなくなり、『夕月庵』と書かれた古風な看板が掲げられていた。
「店ここで合ってるよね・・・・・・、あ、電話だ」
陽太は腰に結んでおいた巾着袋からスマホを取り出した。
ディスプレイには冬真の名前が出ていた。
「もしもし、どうかした?」
『そろそろ店に着いた頃だと思ってな。薄井さんにはさっき連絡しておいた。混んでると聞いた。裏口に回ってほしいそうだ』
「なるほど、並んでたら間に合わないもんな。流石は冬真、仕事が出来るな!」
『お前達なら馬鹿正直に列に並びそうだしな』
「う、それは有り得るかも。ありがとうな、早めに帰るから、じゃあな」
二人は冬真に言われた通り店の裏口に回った。
「すみませーん」
遠慮がちに裏口の扉を開けると成平が出迎えた。
「いらっしゃい・・・・・・、二人はデートですかい?」
「え?」
陽太は自分の手に成平の視線を感じ、手元を見た。
そしてほのかと繋いだままの手を見て陽太は慌てて手を離した。
「うわあ!」
陽太は冬真と電話をした後も無意識に手を繋ぎ直していたのだった。
「いや、これは違くて! 保護者的なやつです!」
「はあ、そうですか」
赤面して否定する陽太を成平は不思議そうに見ていた。
「あの、餡子を三袋買いたいんですが」
陽太がそう言うと成平はあらかじめ用意していた餡子の入った袋を手渡した。
「はい、こちらですね」
「ありがとうございます。これ、代金です」
陽太は冬真から預かったお金を差し出したが、成平は受け取ろうとしなかった。
「いえ、そちら先日のお礼として受け取って下さい」
「え? いいんですか?」
【太っ腹!】
「はい」
ほのか達はこの前翠が言っていた通り、成平は普段とても真面目で寡黙な人間なのだと言う事が分かった。
「それにしても凄い盛況ですね」
愛想笑いを浮かべつつ陽太がそう言うと、成平はスマホを見せた。
「実は・・・・・・」
成平は動画の再生ボタンを押すとグルメリポートの様な番組が流れた。
『こちら夕月庵の長蛇の列をご覧下さい、皆さん新作の和菓子、いえ、洋菓子・・・・・・なのでしょうか? えー、とにかく! このグロ・・・・・・、いえ個性的なお菓子が今話題になっています!』
動画の中のリポーターの前にはモザイクをかけるべきなのではないかと思う程グロテスクなあのお菓子があった。
リポーターは最初食べるのをかなり躊躇っていたが、一口食べるとリポートをするのも忘れ、何かに取り憑かれた様に「美味しい」と繰り返しながら食べ続けていた。
「テレビでも取り上げられてお陰様で繁盛してます。JKはあまり来ないけど・・・・・・」
「そのこだわりは捨ててなかったんですね」
真面目な顔でそう言う成平の台詞が似合わな過ぎて陽太は呆れた顔をし、ほのかは声を出して笑いそうになった。
「あれは『流水落花』と名付けました」
「はあ・・・・・・、そうは見えないけど」
動画の中にも出てくる商品名の漢字を見て、陽太はあれのどこに花や水の流れの要素があるのか全く理解が出来なかった。
「流水落花には色んな意味があるんです。去りゆく春の季節だったり、世の儚さだったり、そして相思相愛の男女を表してたりするんです」
「へ、へえ・・・・・・」
そう言われてもやはりその美しい言葉の意味と、グロテスクな見た目とはどう考えても噛み合わないように思えた。
そんな首を傾げる陽太に成平はほのかには何を言っているか分からないようにこっそりと話した。
「春野君もこの流水落花みたいに相思相愛になれるといいですね」
「え! いや、だから月島さんとはそんなんじゃ!」
「・・・・・・月島さんととは言っていないんですが」
「ぐっ!」
あまりに意識しすぎて、陽太は自ら墓穴を掘っていた。
このままではブラジルまで穴を掘り進めてしまいそうだと陽太は反省し、心を落ち着けようとした。
だが、心の奥底にはいつもまとわりつくものがあり、それをなかなか振り払う事が出来ずにいた。
そんな悩まし気な表情をする陽太に成平はふっと優しい笑みを零した。
「春野君、自分の心が分からなくなった時の裏技、知ってますか?」
「え? 知りませんけど・・・・・・」
そんな裏技があるのかと、陽太は少し気になった。
「まあ、私も受け売りなんですがね、気持ちを声に出してみて、しっくりくるかどうからしいですよ」
「しっくり・・・・・・ですか」
思えばスランプになっていた時の成平も好きなだけ好きな事を言っていた。
その助言がなんだかとても成平らしいと陽太は思った。
「ありがとうございます。裏技、いつか使ってみます」
「はい、二人とも、またいつでも来て下さい」
帰り道、陽太とほのかは片手に餡子の入った袋を持ちながら歩いていた。
ほのかは陽太と成平が帰り際に何を話していたのかが気になっていた。
またあの横断歩道で信号待ちをしていると、ほのかは陽太の袖を引きスケッチブックを見せた。
【さっき、薄井さんと何を話してたの?】
「え? ああ、あれか・・・・・・」
陽太は言うかどうか迷った。
あの裏技については別に話しても問題なかった。
だが、興味津々といったほのかの顔を見て、陽太はちょっとした悪戯心が芽生えた。
「そんなに知りたい?」
額と額がくっつきそうで、互いの吐息が感じられる程顔を近付け、悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言った。
ほのかはあまりに近いのと普段見慣れない色気のある瞳と表情に狼狽し、凄い勢いで数歩後退りした。
【やっぱりいい】
「そう? っていうかそんなに引かれると地味に傷つくんだけど」
陽太は傷心気味にそう言うと丁度信号が青になった。
「あ、青になった。さ、早く戻ろう!」
先程までの妖艶さを掻き消す様な爽やかな笑顔で陽太はほのかに手を差し出した。
ほのかはいつかその話を聞かせてくれる日が来るのだろうかと思いながらその手を取り歩き出した。
ほのかと陽太が和菓子屋に辿り着いた時、二人は以前来た時との変わり様に驚いていた。
店の前には十数人の列ができ、あのふざけた看板はなくなり、『夕月庵』と書かれた古風な看板が掲げられていた。
「店ここで合ってるよね・・・・・・、あ、電話だ」
陽太は腰に結んでおいた巾着袋からスマホを取り出した。
ディスプレイには冬真の名前が出ていた。
「もしもし、どうかした?」
『そろそろ店に着いた頃だと思ってな。薄井さんにはさっき連絡しておいた。混んでると聞いた。裏口に回ってほしいそうだ』
「なるほど、並んでたら間に合わないもんな。流石は冬真、仕事が出来るな!」
『お前達なら馬鹿正直に列に並びそうだしな』
「う、それは有り得るかも。ありがとうな、早めに帰るから、じゃあな」
二人は冬真に言われた通り店の裏口に回った。
「すみませーん」
遠慮がちに裏口の扉を開けると成平が出迎えた。
「いらっしゃい・・・・・・、二人はデートですかい?」
「え?」
陽太は自分の手に成平の視線を感じ、手元を見た。
そしてほのかと繋いだままの手を見て陽太は慌てて手を離した。
「うわあ!」
陽太は冬真と電話をした後も無意識に手を繋ぎ直していたのだった。
「いや、これは違くて! 保護者的なやつです!」
「はあ、そうですか」
赤面して否定する陽太を成平は不思議そうに見ていた。
「あの、餡子を三袋買いたいんですが」
陽太がそう言うと成平はあらかじめ用意していた餡子の入った袋を手渡した。
「はい、こちらですね」
「ありがとうございます。これ、代金です」
陽太は冬真から預かったお金を差し出したが、成平は受け取ろうとしなかった。
「いえ、そちら先日のお礼として受け取って下さい」
「え? いいんですか?」
【太っ腹!】
「はい」
ほのか達はこの前翠が言っていた通り、成平は普段とても真面目で寡黙な人間なのだと言う事が分かった。
「それにしても凄い盛況ですね」
愛想笑いを浮かべつつ陽太がそう言うと、成平はスマホを見せた。
「実は・・・・・・」
成平は動画の再生ボタンを押すとグルメリポートの様な番組が流れた。
『こちら夕月庵の長蛇の列をご覧下さい、皆さん新作の和菓子、いえ、洋菓子・・・・・・なのでしょうか? えー、とにかく! このグロ・・・・・・、いえ個性的なお菓子が今話題になっています!』
動画の中のリポーターの前にはモザイクをかけるべきなのではないかと思う程グロテスクなあのお菓子があった。
リポーターは最初食べるのをかなり躊躇っていたが、一口食べるとリポートをするのも忘れ、何かに取り憑かれた様に「美味しい」と繰り返しながら食べ続けていた。
「テレビでも取り上げられてお陰様で繁盛してます。JKはあまり来ないけど・・・・・・」
「そのこだわりは捨ててなかったんですね」
真面目な顔でそう言う成平の台詞が似合わな過ぎて陽太は呆れた顔をし、ほのかは声を出して笑いそうになった。
「あれは『流水落花』と名付けました」
「はあ・・・・・・、そうは見えないけど」
動画の中にも出てくる商品名の漢字を見て、陽太はあれのどこに花や水の流れの要素があるのか全く理解が出来なかった。
「流水落花には色んな意味があるんです。去りゆく春の季節だったり、世の儚さだったり、そして相思相愛の男女を表してたりするんです」
「へ、へえ・・・・・・」
そう言われてもやはりその美しい言葉の意味と、グロテスクな見た目とはどう考えても噛み合わないように思えた。
そんな首を傾げる陽太に成平はほのかには何を言っているか分からないようにこっそりと話した。
「春野君もこの流水落花みたいに相思相愛になれるといいですね」
「え! いや、だから月島さんとはそんなんじゃ!」
「・・・・・・月島さんととは言っていないんですが」
「ぐっ!」
あまりに意識しすぎて、陽太は自ら墓穴を掘っていた。
このままではブラジルまで穴を掘り進めてしまいそうだと陽太は反省し、心を落ち着けようとした。
だが、心の奥底にはいつもまとわりつくものがあり、それをなかなか振り払う事が出来ずにいた。
そんな悩まし気な表情をする陽太に成平はふっと優しい笑みを零した。
「春野君、自分の心が分からなくなった時の裏技、知ってますか?」
「え? 知りませんけど・・・・・・」
そんな裏技があるのかと、陽太は少し気になった。
「まあ、私も受け売りなんですがね、気持ちを声に出してみて、しっくりくるかどうからしいですよ」
「しっくり・・・・・・ですか」
思えばスランプになっていた時の成平も好きなだけ好きな事を言っていた。
その助言がなんだかとても成平らしいと陽太は思った。
「ありがとうございます。裏技、いつか使ってみます」
「はい、二人とも、またいつでも来て下さい」
帰り道、陽太とほのかは片手に餡子の入った袋を持ちながら歩いていた。
ほのかは陽太と成平が帰り際に何を話していたのかが気になっていた。
またあの横断歩道で信号待ちをしていると、ほのかは陽太の袖を引きスケッチブックを見せた。
【さっき、薄井さんと何を話してたの?】
「え? ああ、あれか・・・・・・」
陽太は言うかどうか迷った。
あの裏技については別に話しても問題なかった。
だが、興味津々といったほのかの顔を見て、陽太はちょっとした悪戯心が芽生えた。
「そんなに知りたい?」
額と額がくっつきそうで、互いの吐息が感じられる程顔を近付け、悪戯っぽい笑みを浮かべてそう言った。
ほのかはあまりに近いのと普段見慣れない色気のある瞳と表情に狼狽し、凄い勢いで数歩後退りした。
【やっぱりいい】
「そう? っていうかそんなに引かれると地味に傷つくんだけど」
陽太は傷心気味にそう言うと丁度信号が青になった。
「あ、青になった。さ、早く戻ろう!」
先程までの妖艶さを掻き消す様な爽やかな笑顔で陽太はほのかに手を差し出した。
ほのかはいつかその話を聞かせてくれる日が来るのだろうかと思いながらその手を取り歩き出した。