金魚占い ○°・。君だけ専用・。○.
入口でぶつかったナースが小さな悲鳴と驚きの声をあげる。

「菜乃花ちゃんっ!まだ寝てなきゃっ。」

「菜乃っ。大丈夫なのっ!」

「ママっ!行かせてっ。」

私はびっくりした顔のママとオロオロする看護婦さんを置いて病室を飛び出した。

慌ててエレベーターのボタンを連打して…もどかしさのあまりに、その横の階段を駆け降りた。





広斗っ!  ……あの広斗なの??

私の夢の中にいた広斗なの……?




私は広斗に会いたい一心で、縺れる足元を引きずって階段を降りる。

めちゃくちゃ息が切れる…それもそうだ、久しぶりに手足を動かしたんだから…。

フラつきながらも、やっとの思いで一階のロビーに着くと私はキョロキョロと人混みの中から広斗の姿を探した。



広斗……どこ? どこにいるの?

  はぁ…はぁ……

「 広斗っ! 広……斗。」



売店から出ようとした広斗は私の声に反応してやんわりと首を上げる。

視線が合うと、驚いたようにその目蓋を大きく見開いた。

「 ……菜乃……?」

作業着姿の広斗は、ハッとして…けれど、まだ信じられないという様な表情で私を見つめた。

「は……はじめまして。」

広斗はそう言うと頭に巻いたタオルを外すと、髪をほぐす仕草と同時に照れた笑顔を見せた。

あっ……そう…そうだ。はじめまして…だ。

「はじめまして……広斗……。」

「 ………菜乃……。」

私は今頃…自分が病衣のままだということに気付いて、顔から火が出る思いで胸元を隠した。


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