金魚占い ○°・。君だけ専用・。○.
アーチ型の屋根のガラス達は自然崩落し、粉々の欠片は、中央の通りをキラキラと飾る。

侵入し…侵出した蔓の葉は柱や街灯を伝う。

残留物には、苔が生しているせいか原型が何であったかさえよく分からない物もある。

たぶん…

パイプ椅子であったであろうその形は、背もたれや座面にも緑の苔が敷き詰まっている。

雨漏り、

湿気、

自然崩壊の壁紙……

踏み入るにつれて煤の汚れであろうか、所々で天井に黒い染みが増えて来た。

火事の爪痕。

20年の時を刻んで…傷みが酷く、朽ちているというのに…

ここは不思議。

昭和の名残りの残留物と、コンクリ…鉄筋の緑の造形が色鮮やかに私たちを待っていたかのように静かに光を差して招き入れてくれているように感じる。

もう少しで忘れ去られようとする記憶の断片が…置き忘れたまま、ここに残り…静かに助けを求めている。

そんな廃墟の断末魔が聞こえるような、この場所。

しんとした巨大廃墟に広斗と私の足音だけが響く。

ガラスをパキパキと踏む音…緑と古いコンクリの匂いに混じって、たまに鼻につく廃墟臭。

突如、飛び立つコウモリの羽音。
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